慢性疼痛におけるニューロイメージングの実際

池本竜則 慢性疼痛におけるニューロイメージングの実際  Locomotive Pain Frontier 2013;2(1):14-19

  • Traceyらの総説 後部島皮質領域をprimary nociceptive cortex(第一次侵害受容野)と記している。したがってこの領域に関しては、痛みの感じ方の個人差はなく、健常者の侵害受容全般に関与する脳領域である可能性が高い
  • 一方、近年のMourauxの研究によると、これまでpain matrixと考えられてきた脳領域は、痛覚以外の感覚系にも反応するマルチモーダル刺激への反応部位であると報告されている。したがって現在のところ、精度の高いfMRIを使い、実験的な侵害刺激による「痛み」をpain matrix 神経活動で評価するという方法は、「感度は高いが特異度は低い」という解釈として理解できるかもしれない
  • これらの研究をはじめとした痛覚関連脳機能イメージング法の報告をみていくと、痛みを感じる際の個人の主観的な感覚は、健常者ではpain matrix神経活動として脳内描出可能であり、その神経活動の大きさにより痛みの程度を評価できる可能性はあるものの、慢性疼痛患者におけるpain matrix神経活動は、情報エントロピーの増大のごとく次第に特定困難となってしまい、感度自体も低下していくのではないかと考えられる
  • 少なくとも痛み感覚の持続とその個体の脳領域における神経伝達・活動の変調は表裏一体に生じていると考えられ、その後の脳組織の再構築や痛みの認知機構を変化させうる基盤となっていることが推察される
  • 長引く痛みの感覚入力が、痛みにかかわる脳内神経細胞および神経伝達に変調を生じさせていることが、実際の脳機能イメージング研究のデータにより実証されつつある
  • 痛みの慢性化に伴う脳容積の減少とともに、慢性疼痛からの脱却に伴う脳容積の改善も脳内病態の一つとして推察される。そしてこのような脳内構造の変化、機能変化は、痛み脳内病態を推察するうえでの客観的指標になりうる可能性が期待される
  • 脳から見ると、社会的苦痛は、痛み感覚を伴わなくても組織障害で生じる「身体的な痛み」と同様の神経回路で処理され、深い情動として認識されていることが示唆される
  • Dewallらによると、従来の鎮痛剤として普及しているアセトアミノフェン内服が、不快情動に関連した脳神経活動の減少とともに社会的疎外感を和らげるという興味深い研究も報告されてきており、従来の鎮痛剤においても、使用法の応用が期待できる