櫻井博紀、牛田享宏 慢性疼痛への理学療法 PTジャーナル 2012;46(2):117-122

  • 運動器の痛みの要因は、画像診断で判別できるようなタイプの構造的な異常によるものよりも、機能的な異常によるものの関与が多いことを示唆
  • 機能的な痛みが出現する部位では、骨関節靭帯とともにった器官だけでなく、筋が大きな役割を演じていることが推察される。
  • この筋の痛みは皮膚の痛みと比べて局在性が低いことや、関連痛などのように他の部位まで波及することが知られており、画像診断で原病変を把握しづらいことにつながっていると考えられる
  • 筋からの痛み入力は、中枢の可塑的変容を引き起こすトリガーとして重要な役割を担い、痛みの持続や範囲の拡大に関与していると考えられる
  • 痛みにより筋緊張亢進が生じると、その拮抗筋では抑制が生じる。これは痛みからの逃避として現れる屈曲反射にも関与しているものと考えられるが、痛み入力により屈筋のγ運動ニューロンは興奮し、逆に伸筋では抑制されることになる。不動によりおこる筋萎縮は伸筋に顕著であり、タイプI線維の構成比率が大きいことと関連しているという報告もある。タイプI線維は持続的収縮として姿勢制御に大きく関与していることから、不活動による姿勢の異常に関連していることが推測される。この筋緊張亢進と拮抗筋の抑制の持続は筋性防御として防御姿勢を呈することで不動化をもたらし、それにより筋・筋膜の伸長・粘弾性低下や筋萎縮・変性、循環・代謝異常が生じ、さらなる痛みと悪循環が生じ痛みの拡大が生じる
  • 初期障害部位でも痛みにより筋緊張が亢進し、さらに防御姿勢の持続により不動化が生じ、運動系を介した痛みの悪循環を引き起こす。これにより新たな痛みが形成され、この部位がさらなる痛みの源となって2次的な急性痛を引き起こすと同時に、初期障害部位からの痛みの入力が続くことで中枢神経系の可塑的変容をも引き起こす。この悪循環によって3次的、4次的と身体面での空間的拡がり、自律系異常、さらには心理面・社会面というように、様々な要素を巻き込み、多次元での複雑に絡み合った変容を呈し、痛みの拡大とともに病態の複雑化・慢性化を引き起こしている
  • 慢性疼痛へのアプローチは、これまでに述べてきたように全身に関わることから、筋など身体的な側面だけでは解決できない要素が含まれているため、集学的治療が必要であるのは間違いない。ただし、これまでに海外などで行われているのは、痛みへの考え方・適切な対処法(コーピング)や認知行動療法などが、中心であり、筋機能そのものはそれほど注目されておらず、ADL向上で全体としての不活動の改善は期待できるが、筋機能不全となってしまっている筋は不活動状態のままであるかのうせいがある
  • そのため、コーピングや認知行動療法だけでなく筋機能不全となっている不動化筋のpコンディショニングを同時に行うことで、より良い改善に繋がる可能性がある。筋機能が回復することで痛みの悪循環を断ち切り、筋の協調性・バランスの改善、姿勢・運動パターンの再学習が起こり、運動制御系に影響を及ぼし、局所での不活動部位の改善、さらに痛み自体の軽減にも繋がる可能性が考えられる