ASIN:4771902240

  • p38 痛みの心理反応
  • 痛みなどの不快刺激に曝されると、人間は精神、身体、行動のいづれかの領域で反応する。反応がどの領域に現れるかは個人差があり、また、反応領域は一つとは限らず、複数の領域に現れることも多い
  • 精神面での反応 不安、恐怖、抑うつ、怒り、攻撃性、心気傾向、不信感、被暗示性の亢進
  • 身体面での反応
  • 行動面での反応 反応行動の個人差、笑いの減少、依存ないし孤立、自殺、自傷、適応行動
  • 痛みへの反応の参照枠
    • 退行
    • 人はストレスに対して、普段からさまざまな心理的対応をしている。これを防衛機制ないし対処行動とよぶ。防衛規制とは葛藤や不安を和らげるために働く、精神内界の無意識な過程をいい、対処行動とは意識的なものも無意識的なものも含めた、ストレスへの適応方策をいう。
    • 痛みのストレスは人を退行させ、普段ならみられないような子供っぽい行動や、未熟な防衛規制を引き出す。例としては、極端な善悪二分割的なものの見方(分裂)、自分の否定的な側面を周りの人々のなかに見出し、そのせいで自分が苦しめられるといって周囲を非難する(投射性同一視)、なげやりで衝動的な行動(行動化)、他人を無能とこきおろす(価値の引き下げ)などが挙げられる。
    • 痛みというストレスにより退行がおこるだけでなく、痛みを訴えること自体が、何らかの問題により退行した際の、必ずしも適応的でない対処行動である可能性を念頭に置く必要もある(通常は身体化ないし置き換えと呼ばれる)
  • パーソナリティ反応
  • パーソナリティとは、外界や自分自身に対して、どのように知覚し、感じ、考え、関係するかについて時間的空間的に安定したパターンであり、その人の特徴的な行動様式として観察される
  • パーソナリティは、痛みというストレスをどのようなもものとして認知し、意味付け、反応するかを規定する。慢性化すればするほど、反応はパーソナリティの違いを反映したものになる
  • 演技的でヒステリーな患者
    • 表情の表出は大げさで、注目されることへの欲求が強く、自己中心的なところがみられる。彼等の認知パターンは印象や直感に基づく。痛みや痛みにともなう機能の損失は、自分の男らしさや女らしさを損なうものとして受け取られる。彼等はいたみを誇張して訴え、不安が募ると感情的になり、あれこれと要求し、操作的なふるまいをする。こうした患者には男らしい勇気や女らしい魅力を認め、支持的に接して不安を軽減することや、要点だけをおさえた大局的な説明が有効とされる
  • 依存的な患者
    • 際限のない依存関係のパートナーとならない工夫が必要である。診察を問題に応じてではなく、定期的なものとすることで、依存性を強化しない。限界を定めてその枠の中では十分な支持を与えることが役立つ
  • 強迫的な患者
    • 几帳面で、融通性に欠け、細部にこだわり全体像を失う。彼等の思考パターンは分析的で情緒を排したものである。また、ものごとがきちんとコントロールされ整っていることに執着する。わずかな痛みに意識が固着してしまい、注意の転導が難しい。彼らには、森田療法的アプローチ、すなわち、あるがままを体得してもらうのがよい。また説明にわたっては、ヒステリー的患者とは違って、細部にも気を配った知的な面に訴える科学的な説明がよい
  • 自己愛的な患者
    • 誇大な自己像を有するためにプライドが高く、他者への共感性に欠け、自己中心的である。自己愛的患者にとって痛みは、他人に頼らない、完全無欠の自己像を脅かすものとして受け取られる。こうした患者に対しては、プライドを傷つけないことが大切である。子供じみたふるまいは、とがめて直面化するよりも、大人として接して行動の結果を本人に考えさせるソクラテス的問答がよい。
  • 不安定な患者(境界性人格)
    • 何を行うか、その見通しはどうかを明確にしておくことが大切である。その際、具体的で小さな目標を立てて、治療効果については控えめに述べる。こうして患者が過大な期待を膨らませ、それが裏切られたと感じて怒る、という反応パターンを予防する
  • 反社会的な患者 彼らに対する有効な手立てはいまだわかっていない
  • 妄想的な患者
    • 冷静に単純明快な説明を繰り返すのが良い
  • 分裂気質な患者 彼らのプライバシーを尊重し、心理的な距離を保つのがよい