疼痛と精神科 3

西松能子 疼痛と精神科 麻酔 2003;52:S83-93

  • 著者らの疼痛患者への治療的取り組み
    • 身体的精査結果について、身体科の主治医を交えて患者に十分説明し、重大な疾患が存在しないことを説明する (症状の説明)
    • 痛みの生じた状況と自分自身の反応(感情、考え、行動)を記載する (客観視)
    • 記載した考えや行動について医師とともに考え、適応的な行動を模索し、次におこったときの患者自身の行動を考える (予測)
    • ラクゼーションや自律訓練法を行い、実際の疼痛が和らぐ経験をする (体験)
    • 将来の疼痛について和らいでいるイメージを訓練する (イメージトレーニング)
    • 疼痛の起こっていない時間を記載から見つけ、そのときは日常生活を従来通り送ることを約束する (疼痛のとらわれからの解放)
    • 必要ならば非特異的方法を使用する (薬物療法など多様な治療)
    • 疼痛のないときも定期的に面接をする (見捨てられ不安を避ける)
  • 精神力動的モデル
    • Engelらは、身体的器質的所見の認めない慢性疼痛患者(pain-prone patient)について精神医学的には転換性障害の診断領域にはいるものが大部分であると診断した。転換性障害である慢性疼痛患者は、精神力動的に治療が可能であるとした。意識的に抑圧された耐えられない心的葛藤が転換されて生じた身体症状が、疼痛という形式を採ると考えた
    • Engelは痛みを起こしやすい患者について以下のようにまとめた
      • 慢性疼痛患者は、見捨てられ不安からくる怒り、攻撃性およびそれらに対する罪悪感がある。
      • 慢性疼痛は、怒りと攻撃性に対する処罰と解釈される
      • 順調にいくこと、成功に耐えられない
      • 喪失体験に際して痛みを起こしやすい
      • したがって、慢性疼痛の治療は、依存性、怒り、攻撃性、それらに対する罪責感および心理的葛藤を精神力動的に治療することによって行われる
    • Kohutらの自己心理学
      • 疼痛を客観的な障害より大きく感じていたり、あるいはいつまでも疼痛が消失しなかったりすることを単純に患者の側の問題としないで、“治療がはかどらない患者への医師の嫌気のさした態度”に対応して“すがりついている患者の行動”と理解する
  • 疼痛性障害の治療
    • “痛みがすぐ軽快しない”という現実を医師―患者双方が無力感なしに受け入れるという困難な作業が第一のアプローチ
    • 第一のアプローチにおいて、疼痛は今まで行なってきた身体医学的治療では完治できないということをまず認め、視点を変え現実の疼痛を受け入れた上で、どのような生活が可能か考えていく姿勢に変換する
    • 第一のアプローチが達成できたら、痛みの問題にたいする患者の見方を、“痛みに圧倒されそう”、“どうしようもない”、から“自分でコントロールできる”“何とかなりそう”に変えていく。
    • “患者自身の見方を医者に治してもらおうという“受身的、反応的、無力”な存在から自分で何とかできるという、“積極的、臨機応変的、力がある”存在として自信を回復するように動機づけていく。
    • 痛み刺激に対する反応を患者自身が観察し、その時々の思考や感情、疼痛行動への気づくことができるようになるように仕向ける
    • 疼痛行動ではない行動を医師とともに考え、痛み刺激に対する適応的な行動をとることができるように援助する。
    • 不適応的な疼痛行動から適応的な行動への変化が患者自身の努力の結果であることを医師や治療スタッフが十分に認め、強調することが重要である。
    • 疼痛行動が適応的な行動に変化したからといって、治療者や家族などが患者に注意を払わなくなったり、痛みについて軽減したと考えていないことを伝え続けることも、また重要である
    • 具体的にどのようにすれば、“痛みに圧倒される存在”から“自分でコントロールできる存在”にかわっていくかというと、まず痛みに伴って生じる随意的な行動を痛みという生理反応から区別し、当面の治療の主眼が疼痛行動(疼痛に対する患者の注目や家族の反応)であることを、患者、医師、患者を取り巻く家族などの全員が了解する。