加藤総夫 痛みの生物学的意義と扁桃体の役割 Brain Medical 2009;21(3):243-249
- 痛みの検出機構
- 痛みの分析機構 明確な身体地図(somatotopy)を持つ視床と大脳皮質の神経回路を用いる
- 情動 正/負情動
- 負情動 有害事象に対する警告として得られた機能
- 情動応答ー条件恐怖反応、条件味覚嫌悪応答
- 嗅覚、味覚、内臓感覚、そして痛覚という4つの原始的な感覚が、いづれも視床および皮質をバイパスして、扁桃体もしくは皮質をバイパスして、扁桃体もしくは拡張扁桃体に直接投射する神経回路を持っている
- 扁桃体は旧皮質に属し、進化的にも古い起源をもっており、味覚、嗅覚、内臓感覚などが伝える原始感覚情報に対して、その個体の生存に対する有害性に応じた情動的価値を賦与する働きを担っている。その情動的価値は、腐敗臭や苦味などのように、多くは遺伝的にコードされていると考えられているが、これら4種の原始感覚の中でも、最も明白な情動的価値をもつ感覚入力はおそらく痛みである
- 痛みによって活性化される負情動生成神経機構としての扁桃体
- 扁桃体中心核外側外包部(leterocapsular part of the central nucleus of the amygdala:CeLC) 侵害受容扁桃体(nociceptive amygdala)と呼ばれる
- 脊髄(三叉神経)-腕傍核-扁桃体-中心核路は痛みの強さや部位の分析でなく、直接的な情動応答の誘発に関与されていると想定されている
- 侵害受容性扁桃体のニューロンは、痛みと情動を最も直接的に結びつける役割を担っていると想定されている
- 扁桃体は非常に高いシナプス可塑性を示す領域である。
- 可塑性ー記憶や学習の基礎課程。条件恐怖反応や条件味覚嫌悪応答も扁桃体におけるシナプス可塑性によって成立。
- 慢性痛は「組織損傷の通常の治癒期間を過ぎても持続する。明らかな生物学的意義のない痛み」と定義される。組織損傷が治癒していたり、そもそも存在していなければ、そこに警告信号としての生物学的意義はもはやない。
- 慢性痛の大きな臨床医学的問題は、原発性の組織傷害や強い侵害受容がほとんど消失しているにもかかわらず残存する、強くかつ持続する負情動であり、その背景には、通常、急性期において侵害受容と情動系を連合している神経回路における何らかの可塑的変化があると予想される。
- このような持続する負の情動としての慢性痛が、多くの患者において、うつ、神経症、あるいはさまざまな心身医学的問題を生じさせ、またそれが、主観的な「痛み」を増大させることは臨床上よく知られている。
- 一週間以上にわたる持続痛による扁桃体シナプス伝達増強の固定化が、慢性痛の本態である「原発性の組織障害や強い侵害受容なしに生じる、強くかつ持続する負の情動」を作り出す脳内機構である可能性をわれわれは提唱している
- 縫線核、青斑核および中脳水道周囲灰白質(PAG)などのいわゆる下行性疼痛制御投射の起始核は、いづれも扁桃体からの強い投射をうけている
- 「情動」とヒトが呼んでいる機能が、実は痛みなどの感覚情報の結果として生じる最終産物ではなく、むしろその活動に基づいて感覚情報の感度を調整することにより、その上方の意味を修飾する恒常性維持あるいは適応機構であるという、新しい、しかし魅力的な概念が浮かんでくる
- ヒトの「感情」さらには「こころ」の起源は、外界からの有害情報に呼応して、自己へその影響を調整し最適化する神経機構である可能性がある。