- CRPS患肢の運動障害が大脳の特定部位の活動と関連することも明らかにされている
- ヒトに備わっている各種感覚情報は、身体周囲の環境と環境内における自己身体の位置情報と姿勢を知覚することに利用され、その感覚情報から自己身体の運動イメージを形成し、運動計画の立案から運動の実行を行い、運動がおきれば新たな感覚情報が入力される。このように感覚系と運動系は常に情報伝達を繰り返しており、これを知覚―運動ループとい呼ぶ
- 健常者であっても、自己身体に関する視覚情報と体性感覚情報が一致せずに知覚―運動ループが破綻した場合には疼痛など異常感覚が出現し、また逆に、四肢切断後の幻肢痛患者に鏡を用いて患肢の視覚情報を与えると、患肢の知覚―運動ループが再統合される結果、幻肢の随意運動感覚が出現し幻肢痛が寛解することも知られている
- このように知覚―運動ループは、病的疼痛の発症メカニズムと密接に関わっていることが示唆されている
- CRPS患者は、明所では正確に視空間を認知できるが、暗所では患側方向に視空間認知が偏位していることを明らかにした
- CRPS患者の運動障害は、患肢の視覚情報と体性感覚情報の統合の障害に起因することが示唆される
- CRPS患者の運動障害と関連する脳領域として、前頭頂間野と中頭頂間野、下前頭皮質が挙げられており、これらの脳領域は一次運動野や前運動野のような一般的な運動系に含まれる領域でなく、各種感覚情報(視覚、体性感覚、聴覚、前庭覚を統合する脳領域の一員として知られている
- CRPS患者では、患肢の無視症状(neglect like syndrome)と呼ばれる現象があり、これは患肢を自分の体の一部と感じない認知無視(cognitive neglect)と、患肢を運動するためには視覚的に患肢を観察しつつ過剰な注意をむけなければ運動ができない運動無視(motor neglect)という二つの症状からなる
- CRPS患肢の指の呼名障害や大きさ知覚の障害、患肢や患側半身の体性感覚閾値の上昇、患肢の運動イメージ時の脳賦活化の減弱などが無視症状と関連していると考えられる
- 健常者を対象とした研究で自己身体の帰属感(身体の一部を自分の身体と感じること)が失われるとその身体部位の皮膚温が低下することが報告されている
- CRPS患者の視覚情報と体性感覚情報の統合の障害が、患肢に限局した自律神経失調様の症状が現れる原因となっている可能性を示唆している
- CRPS患者では視空間認知障害によって患肢について視覚情報と体性感覚情報の統合が常に破綻し続けており、この知覚―運動ループの破綻が病的疼痛の原因として考えられる