痛みの感覚要素の大脳認知メカニズム

井上玲央、住谷昌彦、穂積淳、緒方徹、熊谷晋一郎、山田芳嗣 痛みの感覚要素の大脳認知メカニズム 麻酔 2014;63増刊:S44-S49

  • 鏡療法 皮膚表面(ナイフで刺されているような、電気ショックのような)で感じているような痛みには無効、深部感覚(関節で捻られているような、筋肉を絞られるような)で感じているような性質の痛みには極めて有効
  • CRPS患者の視覚刺激への追跡課題に対する運動障害が患肢だけでなく健肢にも観察されることや両側大脳運動野の抑制性介在ニューロン機能の減弱、CRPS患肢の脳内での運動イメージの障害など中枢神経系の機能異常が報告されている
  • 知覚ー運動ループ
  • 健常者であっても自己身体に関する視覚情報と体性感覚情報が一致せずに知覚ー運動ループが破綻した場合には疼痛など異常感覚が出現、また逆に、四肢切断後の幻肢痛に対する鏡療法の鎮痛機序は患肢の視覚情報によって知覚ー運動ループが再統合させる結果、幻肢の随意運動感覚が出現し幻肢痛寛解する。このように知覚ー運動ループは病的疼痛の発症メカニズムと密接に関わっている
  • CRPS患者は明所では正確に視空間を認知できるが、暗所では患側方向に視空間認知が偏位していた
  • CRPS患肢の運動障害が明暗条件によって異なることから、末梢筋骨格系の異常に起因するものではなく中枢神経系の障害に起因することを示唆する
  • CRPS患者の運動障害は患肢の視覚情報と体性感覚情報の統合障害に起因すると考えられる
  • CRPS患者の運動障害に関連する脳領域 前頭頂間野(AIP)、中頭頂間野(MIP)、下前頭皮質 これらは一般的な運動系に含まれる領域でなく、各種感覚情報(視覚、体性感覚、聴覚、前提覚)を統合する脳領域
  • CRPS患者の明暗条件による運動制御の違いが患肢の視覚情報と体性感覚情報の統合の障害に起因することを支持する
  • 自己身体の認知に関しては体性感覚情報よりも視覚情報の方が優位であり、さらに身体部位の視覚情報と体性感覚情報が合致しなければ自分の身体の一部であると認知できないことを意味する
  • CRPS患者で患肢の資格情報と体性感覚情報の統合が障害されていることは、CPR患者が訴える患肢の無視症状(neglect-like symptom)の原因となっていることが考えられる
  • CRPS患者の視覚情報と体性感覚情報の統合の障害が患肢に限局した自律神経失調様の症状が現れる原因となっている可能性がある
  • この知覚―運動ループの破たんがが病的疼痛の原因として考えられるが、視野偏位プリズム順応で視空間知覚を矯正することによって、患肢の身体帰属感も回復(無視症状が寛解)し、さらにCRPS患者に観察される明暗条件で運動制御能の違いもほぼ正常化されたので、患肢の視角情報と体性感覚情報が再統合されるといえる。そして、その結果、知覚ー運動ループの再統合と病的疼痛の寛解が得られたと推察している