平林万紀彦: 森田療法からの診立てと治療方針. 精神科治療学 32(7):919:924,2017
- 痛みは、知覚的、感情的、認知的に脳で統合され、それらは相互に作用し、われわれは痛みを内的に体験しする。
- 痛み診療では、睡眠障害が併存することが多く、その他に鎮静薬による過鎮静や、筋骨格痛の併存も多いレビー小体認知症などが背景にある場合もあり、「ややぼんやり」した、「たまにちょっと的外れの応答」をするといったごく軽度のものを含めると意識障害はわりと身近にある病態である
- とらわれの機制
- 過剰な追求により痛みがこじれてくる
- 欲に任せて理想を多く求めるとほど苦しさ増していくわけである
- こうしたとらわれから脱却するためには、痛みを排除しようとするはからいをやめ、そのままにしておく態度を養い、同時に、生の欲望を活かし建設的な行動につなげていくかどうかが鍵となる
- 患者は痛みの強さの変化よりもどれだけ過ごしやすくなったかで回復の度合いを判断するもので、痛みの強さはそほど変化がなくても患者の生活に張り合いがでてくると痛みがさほぞ気にならなくなり、治療を今以上に求めなくなるものだ
- 同じように痛みがあっても、行き詰まる人もいれば、生き生きと過ごす人もいる。それでは、なぜこのような違いが生まれるのだろうか
- ひとつは今ある痛みに逆らわず痛みを受け入れることができているかどうか、また痛みがあっても必要なことには手をだせているかどうかが肝心である
- 痛みを感じる脳の過敏性を緩和させることが生活機能の向上に役立つことを患者に説明した上で、痛みという症状は医療に任せ、患者には痛みへの向き合い方を換えることに注力してもらうよう役割分担を促すのもひとつである
- 森田療法の9か条
- 観察する
- 1 痛みが嫌なのは自分が健全だからこそ「生の欲望を発見する]
- 2 痛みのコントロールは難しい「感覚の自覚を促す」
- 3 怠けでなく、頑張りすぎて苦しくなる「悪循環を明確にする」
- 痛みが悪化する過程において”とらわれの機制”(精神相互作用、思想の矛盾)に着目する
- 苦しいときに注意がどこに向かっていたか、どんなことを考えていたか、を問いかえk、痛みに過剰に注意を向け、痛みを今すぐに排除すべきだと頑なになり、痛みをこじらせていることに自覚を促す
- 選択する
- 4本当に肝心なところに注力する「目的を見出す」
- 5やりすぎないでほどほどのペースをつくる「行動から生活のパターンを見直す」
- 6 痛みとは戦わず自分が今できることに没頭する「今に焦点を当てる」
- 過去の失敗や未来の不安にとらわれる度に、目の前の大事なことがおろそかになる
- 7 小さな一歩を積み重ねる「記紀への直面化を支持する」
- 8 あるがままに行動する姿勢を身につける「建設的な行動を継続するよう促す」
—治療は一進一退しながら前進していく「患者に寄り添い続ける」
- 「痛みの原因探し」や「痛みの除去」にとらわれ過ぎることによってかえって見えなくなる事柄が思いのほか多く、患者の不満が募り治療方針が定まらないこともある
- そこで、痛みという曖昧なものは曖昧なものとして扱い、治療の焦点を”痛みの除去”から”ありのままの患者本人の強みを活かす”関わりに転換することが、時として、行き詰まった治療を打破する契機となる