痛み診療における森田療法の役割

平林万紀彦 痛み診療における森田療法の役割 最新精神医学 2017;22(2):131-137

‐身体因の有無を問わず痛みがこじれるときは「痛みを嫌うと痛みに注意が向いて」「痛みに過敏になり」「痛みを恐れてますます注意を向きやすくなり」「さらに過敏になり苦痛が強まる」というように心身は一体化して不快感が強まっていくので、身体因と心因を厳密に区別するのは臨床的に役に立たず心身双方のケアが必要になる

  • 森田療法の適応 特に内向性、過敏、心配性、完全主義、理想主義など神経質性格とよばれる性格者に有効- 森田療法は、痛みとともに生き、生活を豊かにしていくことで、”あっても平気な痛み”に転換させる援助となる- ほかの精神療法と同様に意識障害を是正したうえで本格的に取り組みたい
  • 痛み治療の目的は、我慢しがたい痛みによる障害からの回復を目指す必要がある- 痛みの強さはさほぞ変化はなくても患者の生活に張り合いが出てくると痛みはさほど気にならなくなり、治療を今以上には求めなくなるものだ
  • 医療者としては、失望しながらもこれまでの痛みをよく奮闘してきたことを称えたうえで、提供できる医療を謙虚に提案していくことが治療を継続する上でも役立つ
  • 森田療法の効能
  • 精神交互作用 痛みがあることを案じ、痛みにひどく怯えることで痛みに注意が向き過敏になり、さらに痛みが辛いものとなるため益々痛みに注意が向きやすくなる
  • 思想の矛盾 痛みは有害で厄介なものだからなんとかしてコントロールしすぎて、そこに不可能を可能にしようとする葛藤が生じことで益々痛みが苦しいものになる- この二つ 慢性痛患者に生じやすい心理的な悪循環を”とらわれの機制”とよぶ- その裏には健康に生きようとする人間本来の欲望が存在 生の欲望
  • こうしたとらわれから脱却するためには痛みを排除しようとするはからいをやめ、そのままにしておく態度を養い、同時に、生の欲望を活かし建設的な行動につなげていけるかどうかが鍵になる
  • 森田療法の痛み診療手順
  • 観察する
  • 1. 痛みが嫌なのは自分が健全だからこそ [生の欲望を発見する ]
  • 2. 痛みのコントロールは難しい [感覚の自覚を促す]
  • 3. 怠けではなく頑張りすぎて苦しくなる [悪循環を明確化する]
    • とらわれの機制(精神交互作用、思想の矛盾)に着目する
  • 選択する
  • 4.本当に肝心なところに注力する [目的を見出す]
    • 痛みのためにこれまで諦めてきたことにも焦点をあてる
  • 5. やり過ぎないで、ほどほどのペースを作る [行動や生活のパターンを見直す]
  • 活かす
  • 6. 痛みと闘わず自分が今できることに没頭する [今に焦点をあてる]
    • この瞬間に何が重要かを考え、今ここに集中してその場と一体化する状態をつくる
  • 7.小さな一歩を積み重ねる [危機への直面化を支持する]
    • ここで大事なのは何でもいっぺんにやろうとせず、小さな成功を積み重ねることである
  • 8. あるがままに行動する姿勢を身につける [建設的な行動を継続するよう促す]
    • 危機にあって転ぶのは自然の摂理であり、転ばないことに力を入れるのではなく転んだ後にどう立ち上がるかに注力することで粘り強さが培われる
    • その際、自分は痛みも苦痛も感じる弱い人間であることをあるがままに受け入れると、痛みよりも大事な生活上の課題に手を出しやすくなる
  • 9. 治療は一進一退しながら前進していく[ 患者い寄り添い続ける]
    • 実際、治療の過程はらせん階段を昇るようなもので、同じ風景が繰り返し現れて堂々巡りをしているようにもみえる。しかし、避けてきたことに恐る恐る、とりあえず手を出し、足を出し続ければ確実に治療の階段を昇り、あるところで突然視界がひらけるような実感が得られる。つまり痛みがあっても過ごしやすくなることで生活はうまく回るようになり結果的に楽になるのっだ
  • 痛み診療においては、「痛みの原因探し」や「痛みの除去」にとらわれ過ぎることによってかえって見えなくなる事柄が思いのほか多い。痛みという曖昧なものは曖昧なものとして扱い、治療の焦点を"痛みの除去"から”ありのままの患者本人の強みを活かす”関わりに転換することが、時として、行き詰った治療を打破する契機となる