痛みによるエピジェネティクス修飾の理解と脳内ネットワーク異常応答

山下哲、濱田麻美、須原佑樹、成田年 痛みによるエピジェネティクス修飾の理解と脳内ネットワーク異常応答のオプトジェネティクス ペインクリニック 2013;34(8):1078-1090

  • エピジェネティクス修飾とは、突然変異のような塩基配列の変化を伴わずに遺伝子発現の活性化、不活性化を起こす後生的な遺伝子修飾の総称である
  • エピジェネティクス修飾の首座はDNAメチル化やヒストン修飾であり、いずれも遺伝子発現に長期的な影響を与える
  • C-C ケモカインの一種であるmonocyte chemoattractant protein (MCP3)の神経障害性疼痛の発現において重要な役割を担っていることを見出した
  • 神経障害生疼痛下での脊髄内アストロサイトにおけるMCP3の発現増加はIL-6を介して誘導され、エピジェネティクス修飾により持続的に制御されている可能性があることが示唆された
  • エピジェネティクス修飾によって持続的な疼痛が形成される機構の一端が明らかとなった
  • 脊髄後角アストロサイトにおいてC-Cケモカインの一種であるMCP3が過剰産生され、ミクログリアを活性化することが神経障害性疼痛の難治化に重要な役割を担っている
  • 神経障害性疼痛下においては、エピジェネテクス修飾によってMCP3やCCR2などいくつかの分子の持続的な過剰発現が起き、結果としてミクログリアが活性化される。このような変化は、脊髄後角を過敏状態へと誘導し、上位中枢である脳へ慢性的に痛み刺激を入力させる。この現象が神経障害性疼痛の慢性化、難治化に寄与している可能性が考えられる
  • 痛み刺激により痛みが慢性化ならびに複雑化することの原因の一つとして、側坐核領域の神経可塑的な変動が引き起こされている可能性が考えられる
  • このような細胞機能に影響を与える分子を、遺伝子工学的に特定の神経にのみ特異的に発現させ、光を照射することによりその特定の神経活動を操作する手法が確立された。これがオプトジェネティクス法である
  • オプトジェネティクス法を用いた研究で側坐核の情動への直鉄的関与が報告されている
  • 神経障害性疼痛下においては中脳辺縁ドパミン神経の活性が低下している可能性が示唆された
  • 中脳辺縁ドパミン神経系の活性化は、難治性の痛みにたいして鎮痛効果を示す可能性が示唆されたが、それはあくまで一過性の反応であった
  • オプトジェネティクス法を使った最近の論文では、先述のように腹側被蓋野ドパミン神経が、経路特異的に報酬効果と嫌悪効果の両方を制御している可能性を示唆している
  • まずは、強固なエピジェネテクス修飾が形成される前に早期に除痛することが最優先であり、最善策であるといえる。痛みが可塑的な神経の機能変化により慢性化し、情動障害や睡眠障害などの二次的障害を併発すると、それが相互に悪影響を及ぼす、負のスパイラルに陥る。初期における適切な疼痛コントロールを行えば、可塑的な神経の機能的な歪を最小限に抑え、情動障害・睡眠障害を含めたトータルペインの改善につながるだろう