痛みに伴う心の動き 精神医学的問題について

西原真理 痛みと情動:臨床医学 痛みに伴う心の動き 精神医学的問題について ペインクリニック 2016;37(6):741-747

  • 著者は最近の痛み研究の潮流は、脳の問題、精神機能との関連で議論され過ぎていないかという疑問を感じている
  • 慢性腰痛において器質的要因が特定できない非特異的腰痛が多いことは周知の事実であるが、非特異的腰痛=精神的問題ではけっしてない。
  • 痛みに関連する感情の精神医学的定義
    • 感情(affect) 身体的感情、精神的感情
      • 感覚刺激に対する快・不快
      • 自律神経機能の変化を常に伴う
      • 痛みに対する感情の動きという点から見ると、われわれが取り扱う感情は大部分が身体的感情
      • 精神的感情 怒り、愛情、恥などの人間において発達した感情
  • 感情の中に分類される痛みと関連しやすい情動と気分
    • 情動(emotion)
      • 比較的持続時間の短い急性に起こる感情 不安は含まれる
      • 対象があるネガティブな情動を恐怖、対象がなく浮動性の情動を不安
      • 痛みの対するネガティブな情動が対象が明確な場合には恐怖としたほうが適切
    • 気分(mood)
      • 個人の知覚を彩る穏やかで持続的な拡がりをもった感情
      • 週単位続く 対象が存在しない
  • 痛みと抑うつ気分、病的不安について
    • 抑うつ気分、病的不安 どちらもSSRIが有効
      • 抑うつ気分 心的エネルギーの低下が根底にあり、自責感、不眠など生理的な機能障害などを伴うもの
    • 病的不安 笠原
      • 1言葉で表現するのが難しい 2人にわかってもらえない 3我慢しにくい 4かなり長く続く、少なくとも簡単には消えない (痛みの性質と似ている)
  • パニック発作
    • 危険を警告する信号が誤作動を起こし情動反応が引き起こされ、その結果、動悸、過呼吸、散瞳、発汗(すべては敵からすぐに逃げるために必要な反応)といった自律神経反応に結びつくもの
    • 筆者はこのような脳の反応についてパニック発作を有する患者に説明するようにしているが、心理的要因を強調する説明よりもはるかに理解を得やすい
  • 気分障害、不安障害と慢性の痛み
    • 17カ国の国際的な研究では、各種慢性の痛みは大うつ病パニック障害全般性不安障害など不安障害において、広場恐怖を除いて雄に発生しやすい
    • 痛みがうつ病治療の予測因子になっている
    • 不安障害も大うつ病に勝るとも劣らない痛みへの影響が報告されている
    • 慢性痛と大うつ病、不安障害は深いレベルで相互に強い関係を有することには間違いない

自己感の破たん:痛み、トラウマ、アディクション

熊谷晋一郎 自己感の破たん:痛み、トラウマ、アディクション トラウマティックストレス 2016;13(1):34-43

  • アディクションになりやすい危険因子と、疼痛が慢性化する危険因子も、重なり合う部分が多い
  • SchwabeとWolf 総説で、ストレスの存在が空間記憶や行動制御の戦略に対して影響を与える
    • 空間記憶 対象物の相対位置関係によって学習する海馬依存的な空間記憶システムよりも、刺激の反応の一対一関係(S-R)によって学習する背側線条体依存的なシステムを優位
    • 行動制御の戦略 行為とその結果が持つ価値付けとの対応関係によって学習する眼窩前頭皮質・背側線条体依存的なオペラント条件づけ学習よりも、S-Rによって学習する背中外側線条体依存的な条件反射を優位にする
  • 痛みは負の強化因子として作用し、依存薬物は正の強化子として作用するという違いがあるものの、最終的にはストレス下で単線的なS-R連合に基づく非適応的思考・行動パターンが条件付けされ、そこから抜け出しがたくなるというメカニズムには共通する部分が多いと考えられる
  • 痛みと心的外傷ストレス障害も合併しやすいことが知られている
  • PTSDとは、トラウマ的な出来事によって引き起こされた、再体験、回避行動、感情鈍麻、過覚醒を特徴とする重大な疾患
  • PTSDは虐待被害者が慢性疼痛になるかどうかに影響を与える媒介因子であるだけでなく、急性疼痛の慢性化や痛み傷害に対するリスク要因として認識されている
  • 痛み刺激を与えた時のPTSD患者(疼痛なし)の脳血流所見で一致しているのは、右前部島皮質の活動上昇と、右扁桃体の活動低下と報告した(メタアナリシス)
  • PTSDに認められる扁桃体活動度の低下は、ネガティブな感情や痛みに対する回避・解離傾向に関連している可能性がある
  • 痛みとアディクションは共通して柔軟性に乏しいS-R学習が優位になっている
  • 2つの自己感
    • 時間を超えて変わらない自己 sense of invariance
      • 内蔵制御信号ー内蔵感覚ー運動制御信号ー自己受容感覚ー外受容感というマルチモーダルな情報統合パターンによって、時間をこえて変わらない自己が表象されている
    • 時間とともに変わり続けているが、連続している自己 sense of continuity
      • 断片的なエピソード記憶を目的論的なフォーマットによって統合してできる「自伝的知識基盤」という情報構造によって表象される
  • 自伝的知識基盤 真理論(整合説と対応説)
  • Conwayのモデルによると、長期記憶として保存されている自伝的知識基盤の構造は、自己整合性が優先され抽象概念によって表象される「概念的自己」と、現実対応が優先され具体的な感覚運動情報で表象される「エピソード記憶」という2つの異なる種類のサブシステムからできあがっている
  • 脳内の3の大きなネットワーク
    • default-mode network
      • 何の課題も与えていないときに活動を高め、課題遂行中に活動が落ちる。過去の自伝的知識基盤を走査することでシミュレーションを走らせ、未来のシナリオやさまざまな社会的・個人的出来事を予測することにある
    • 前頭頭頂コントロールネットワーク FPCN front-parietal control network
      • 短期的な目的指向的活動におけるトップダウン制御と運動制御信号ー自己受容感覚ー外受容感覚統合パターンの誤差検出、注意切り替えに関わる
    • salience network
      • 長期的な目的指向的行動のトップダウン制御と、内蔵制御信号ー内臓感覚統合パターンからの誤差認識、脳の大局的ネットワークの再編成を担う
  • 概念的自己はSN制御下に自己整合性を優先してDMNの前部に構築されるが、エピソード記憶は、いったん短期的にFPCN制御下に事実対応を優先してDMN後部に構築されたのちにSN制御下に整合性の条件も満たすもののみ長期記憶になると推測される。こうして2つの記憶システムがSN制御下にうまく統合された時に、自伝的知識基盤は整合性と事実対応の両条件を満たすようになるかもしれない
  • 侵害受容性疼痛と自己感
    • 変わらない自己のうち、内的恒常性のモニターと維持にかかわる内蔵制御ー内蔵感覚統合からの誤差検出を担うSNの活動の大きさが、侵害受容性疼痛の主観的強度を表象していると考えられる。侵害受容性疼痛の主観的大きさとは、個体としての恒常性がどの程度揺るがされたかのよって表現されている
  • 神経障害性疼痛と自己感
    • 変わらない自己のうち、運動制御信号ー自己受容感覚ー視覚の統合不全が注目されている
  • 中枢機能障害性疼痛と自己感
    • 連続してる自己の神経基盤といわれるDMNや、DMNとSNの結合パターンの異常
  • 自己の破たんの観点から見るPTSD
  • PTSDと変わらない自己
    • トラウマとは、脅威に立ち向かうための効果的な生理反応が起動せず、不動状態に陥ることによって特徴づけられる
    • PTSD患者の脳機能イメージングでは新線条体の活動低下が報告されており、恒常性を揺るがすような刺激に対して適応的に行動することが難しく、S-R連合的な条件付け反応が優位になっている状況を示唆する
    • 脅威を与えうる顕著な刺激を取得した際のSNレベルの<内蔵制御信号ー内臓感覚ー運動制御信号ー自己受容感覚ー外受容感覚>統合パターンが、PTSDにおいて非適応的なものになっていることを示唆する
  • PTSDと連続している自己
    • トラウマに関連した精神病理において、過剰一般的な自伝的記憶(OGM)をもっていることがよく知られている。
    • OGMとは、自分の過去の具体的な出来事を思い出して描写することの困難、とりわけ個別の時間と場所で起こった特定の出来事をうまく報告できない状態
    • SNレベルでの変わらない自己の統合不全が、DMNレベルでの連続してる自己の統合に影響を与えている可能性が示唆される
    • 安全に身体感覚に注意を向けるやり方を学ぶと、すべてがある時刻で凍りついたようなトラウマ経験とは異なり、現在の身体的な経験が時々刻々変化し続けるものだということを知る。こうして過去の身体経験と現在の身体経験が分離されるようになると、トラウマ記憶が現在に侵入しにくくなるという

痛みの哲学

熊谷晋一郎 痛みの哲学 日整会誌 2016;90:501-511

  • 本論では、いm帯を考える上で予期(こうしたい、こうすべきという「期待」と、こうなるだろうという「予測」の2つを合わせたもの)やその破綻に注目する
  • 予期の破綻に対する非適応的な対処パターンが常態化された状態として、「慢性疼痛」「アディクション」「心的外傷後ストレス障害」の3つを取り上げる
  • アメリカの3学会(AAPM,APS,ASAM) 「痛み」と「アディクションとは別の診断カテゴリーでなく、互いに重なり合う疾患概念であるということを共同声明として発表している
  • Weismanは、過量服薬や、早期に薬物の補充を要求するといった、一見常軌を逸したアディクションの徴候に見えるものが、実はコントロール不十分な痛みをどうにかしようとする疼痛患者の必死の試みである場合があると注意を促しており、このような状態を「偽性アディクション」と読んでいる
  • アディクションになりやすい危険因子と、疼痛が慢性化する危険因子も、重なりあう部分が多い
  • 薬理作用の面でも、臨床像の面でも、危険因子の面でも、アディクションと疼痛は地続きである
  • 痛みとアディクションは、どちらも心的外傷ストレス傷害PTSDとも合併しやすいことが知られている
  • 疼痛、アディクションPTSDではそれぞれ、痛み行動、嗜癖行動、恐怖回避行動という非適応的な対処パターンが常態化している
  • Schwabe,Wolf 総説で、ストレスの存在が、「空間記憶」や「行動学習のモード」に対して影響を与えると述べている
  • ストレスはその定義上、予期を侵害する刺激や記憶、あるいは、予期を侵害する出来事の予期に対する侵害反応である。したがって、3つの病態に共通するメカニズムを考える上では、予期とその破綻に着目する必要があると推定される。

  • 2種類の自己感
    • 時間を超えて変わらない自己 sense of invariance
      • 内蔵制御信号ー内臓感覚ー運動制御信号ー自己受容感覚ー外受容感覚というマルチモーダルな情報統合パターンによって、「時間を超えて変わらない自己」が表象される
    • 時間とともに変わり続けているが、連続している自己 sense of continuity
      • 「連続している自己」は、断片的なエピソード記憶を物語的なフォーマットによって統合してできる、「自伝的知識基盤(autobiographical knowledge base)」という情報構造によって表象される自伝的知識基盤
  • 概念的自己とエピソード記憶
  • default mode network (DMN)が自伝的知識基盤を構築保存するとともに、それを操作することでシミュレーションを走らせ、未来のシナリオやさまざまな社会的・個人的出来事を予測する
  • 自己感破綻の観点から見る痛みとトラウマ
    • 1神経系以外の組織に損傷や炎症があり、それが侵害受容性の神経を興奮されることで起こる侵害受容性疼痛
    • 2痛覚信号を伝える神経の伝達が遮断されることで起きる侵害受容性疼痛
    • 3高次の中枢神経の機能的変調によって生じ、破局化や痛み行動といった思考・行動パターンによって特徴づけられる中枢機能障害性疼痛
  • 痛覚に特化した脳部位は存在せず、触覚・体性感覚に特化した脳部位の活動と、島皮質を中心としたマルチモーダルな顕在性検出ネットワーク(SN;salience network)の活動が合わさって、痛覚経験が生じるということである
  • 変わらない自己のうち、内的恒常性のモニターと維持にかかわる内蔵制御信号ー内臓感覚統合からの誤差検出を担うSNの活動の大きさが、侵害受容性疼痛の主観的強度の表象していると考えられる。侵害受容性疼痛の主観的大きさとは、個体としての恒常性がどの程度揺るがされたかによって表現されている可能性がある
  • PTSD研究で有名なvan der Kolkによれば、ある特定の体験がトラウマティックなものになるための条件は、身体的な無力化(physical helplessness)であるという
  • PTSD患者の脳機能イメージでは新線条体の活動低下が報告されており、恒常性を揺るがすような刺激に対して適応的に行動することが難しく、S-R連合的な条件付け反応が優位になっている状況を示唆する
  • こうした知見は、脅威を与えうる顕著な刺激を取得した際のSNレベルの<内蔵制御信号ー内臓感覚ー運動制御信号ー自己受容感覚―外受容感覚>統合パターンが、PTSDにおいて非適応的になっているということを示唆する
  • 一部の神経障害性疼痛においては、変わらない自己のうち、<運動制御ー自己受容感覚ー視覚>の情報統合不全が注目されている
  • 中枢機能障害性疼痛・PTSDと「連続している自己」の破綻
  • 破局化傾向に関連した所見として、「連続している自己」の神経基盤と言われるDMNが、DMNとSNの結合パターンの異常が指摘されてきた
  • トラウマに関連した精神病理におていは、過剰一般的な自伝的記憶(overgeneral memory;OGM)を持っていることがよく知られている
  • OGMとは、自分の過去の具体的出来事を思い出して描写することの困難、とりわけ個別の時間と場所で起こった特定の出来事をうまく報告できない状態である
  • 安全に身体感覚に注意を埋めるやり方を学ぶと、すべてがある時刻で凍りついたようなトラウマ経験と異なり、現在の身体的な経験が時々刻々変化し続けるものだということを知る。こうして過去の身体経験と現在の身体経験が分離されるようになると、トラウマ記憶が現在に侵入しにくくなるという
  • 筆者の提案は、PTSDアディクション臨床における蓄積を、痛み臨床にも活かせるのではないかというものである
  • われわれは、類似した感覚運動統合様式と、類似したエピソード記憶を持った人が集まって、他社の力を借りながら、各々が自己感の再統合を目指す「当事者研究」という取り組みを行っている

printing issue (el capitan/ricoh)

  • printing issue
  • problem
  • まず
    • 上記の方法で、システム環境設定、プリンタとスキャナから、プリンタを4310を追加
    • ppdファイルはRicoh-RPDL_IV_Laser_Printer-rpdl.ppd
  • 対応策 (sandboxとX11)
    • ここの方法でcups-files.confにSandboxing Relaxedを一行追記
    • cf. http://www.macobserver.com/tmo/forums/viewthread/86495/
    • 上記の記載ではこれで印刷成功とあったが、当方はうまくいかず
    • consoleのエラーをみると、Xがなんとかと書いてあったので、下記からX11をいれる
    • cf. https://www.xquartz.org/
    • 印刷成功
    • 注 xquartxのinstallが待っても終了しないので、強制終了。再起動しようとするとinstall in progressでできない。terminalからsudo shutdown - h nowで再起動できた。。

認知行動療法を使いこなす

雑誌 臨床心理学 vol 16 no 4 2016の特集は「認知行動療法を使いこなす」


臨床心理学第16巻第4巻―認知行動療法を使いこなす

臨床心理学第16巻第4巻―認知行動療法を使いこなす

ORCA tips

  • 処方内容はORCAお薬手帳を印刷し、カルテに貼っている。
  • 院内処方の当院では、薬価改正ごとに、使用薬剤の見積もりを依頼し、適宜入れ替えている。
  • 処方は前回の処方内容をコピーすることが多いが、薬剤変更があると、誤って変更前の薬剤を処方してしまうことがある。
  • そこで薬剤の入力コードを "?????????数字"にして、コピーのあとに目立つようにすると、誤った処方に気がつくようになった。
  • 変更前
  • f:id:ucymtr:20160710182248p:plain
  • 変更後
  • f:id:ucymtr:20160710182321p:plain
  • ?????があるので、入荷していない薬剤に気づきやすい
  • 同じことを昨年書いていたのを忘れていた 
  • cf. http://d.hatena.ne.jp/ucymtr/20151217

疼痛と記憶 般化形成と記憶再形成過程の役割

龍野耕一 疼痛と記憶 般化形成と記憶再形成過程の役割 Locomotive pain frontier 2016;5(1):40-46

  • 臨床心理士として運動器の慢性疼痛患者への面接を始めてまず感じたことは、外科的侵襲以外に、交通事故、格闘技、暴力、行き過ぎた躾など直接あるいは間接的体験としてもつ患者が少なくないことであった。身体の痛みに「耐えてしまえた記憶」が、慢性疼痛の症状形成にどうつながるかが最初の疑問であった
  • 感覚的、情動的に不快な体験の「記憶をその患者は面接で「想起」して訴えている
  • 無条件刺激(unconditioned stimulus;US) 生得的に行き起こす注射針の刺入のような刺激
  • 無条件反応(unconditioned reflex;UCR) その結果生じた痛みの恐怖が連合した反応
  • 条件刺激 (conditioned stimulus;CS) 条件付けられて反応を起こす刺激
  • 条件反応 (conditioned reflex;CR)
  • こうして条件付けられた患者は、「注射器」のことを「考えた」だけでも「不安」という情動を感じるようになり、感覚記憶と情動記憶の連合が形成されたことになる
  • 般化(刺激般化) 違う病院の建物を目にしただけでも、街角の献血車を見ただけでも腹痛が起こる
  • 反応般化
  • 多項随伴性
  • 情動反応の般化解消を目指して
    • 「痛み」刺激を罰刺激として捉えて連合する恐怖や不安に苛まれる患者を目の前にしては、できることなら「今、その場」で痛み刺激と膨れ上がった不快情動との連合を解消し、あくまでも「身体科医療」の枠組みのなかに戻してあげたい、と誰しも思うであろう
    • 記憶の固定化 LTP long term potentiation 短期記憶 遺伝子発現の誘導によらない初期( early-phase:E-phase) 新規合成蛋白質の機能によって起こる後期 (late-phase:L-phase) シナプス可塑性との関係
    • 記憶の不安定化と再固定化
    • 消去学習 暴露療法(持続エクスポージャー療法)
    • 交通事故、格闘技、暴力など直接あるいは間接的に体験して抱いた「痛み」の情動記憶が、現在の「痛み」の刺激般化によって、より大きな情動反応を引き起こすとすれば、その般化形成を解除することによって、膨れ上がった情動反応とそれが引き起こす反応般化を沈静化することができ、そこに心理臨床が介在する意味が存在しているといえよう
  • 慢性疼痛の心理臨床領域における私の試み
    • 治療者ー患者関係 打ち明けても構わないと感じてもらえれば、語っていただく痛み体験の記憶に、親身に聴き入る面接者への信頼感と、診察室という守られた空間が与える安心感だけでも、その辛い体験への新たな連合を形成して消去学習を誘導するかもしれない。医療者の落ち着いた、共感性に満ちた態度は、それだけでも、患者の辛い記憶をすでに癒しているといえる
    • ジェノグラムの効用(記憶の臨床検査室)
      • 患者の背景や生育歴を知るためにだけではなく、患者の自分史を語っていただくなかで、過去の不安を語ることを妨げず、その傷ついた体験に寄り添い共感を示す機会を与えられ、優れた治療過程を提供してくれている
  • 安全なクスリ(記憶でつくる鎮痛剤)
  • 患者に楽しい腹を抱えて笑った体験を話してもらい記憶想起を行う。楽しい笑いが生理的鎮痛機序として有効であると説明した上で、その想起直後に痛みがどのくらい減じたか尋ねる。肯定的評価が得られれば、この記憶に名前をつけてもらい、安全でよく効く自前の薬として、持ち帰ってもらう
    • 睡眠衛生指導(記憶のための栄養剤)
  • 慢性疼痛治療に期待したい心理療法
  • 心理臨床でもっとも大切だと考えていること
    • たとえどれだけ傷つき、苦しい体験をされた方であって、その人を”悩める人””傷ついた人”としてみるのではない。その体験を懸命に生き抜き、そしてこれからも、自分が望む人生を歩んでゆくための力をもった方であるという視点を忘れないこと。つまり、苦しい記憶だけを扱うのではなく、リソースや、幸せな記憶、未来への展望、それらすべてを含んだその人そのものにかかわらせていただく、という姿勢を持つこと。その上で、クライエントの訴えの”意味”を考える姿勢が、心理臨床では最も大切である」と。
    • 対人援助の基本を示す岩間の言葉
      • 対人援助にかかる自己決定の原則は「本人に決めてもらうことではなく、本人が決めるプロセスを支えること」である