安部剛志、住谷昌彦、柴田政彦、前田倫、松田陽一、阪上学、井上隆弥、真下節、難治性疼痛に対する鏡療法の認知行動療法的意義 慢性疼痛 2007;26(1):237-241

  • 鏡療法の難治性疼痛に対する治療メカニズムは、中枢神経系における運動の内部モデル(知覚ー運動ループ)との関連が考えられている。知覚ー運動ループとは、”四肢運動の際に運動の指令に続いて実際の運動が起こり、そしてその運動の結果が知覚(フィードバック)されることによって次の運動指令が新たに準備される”という運動に伴う一連の運動系と感覚系の情報伝達機能を指し、この知覚ー運動ループは常に中枢神経系でモニタされている。難治性疼痛および鏡療法の治療メカニズムの知覚ー運動ループとの関連については、A)神経損傷などにともなって知覚ー運動ループが破綻すると病的痛みが生じる B)患肢への運動指令に対応した体性感覚フィードバックの欠落を鏡療法が”視覚的に代償して中枢神経系にフィードバックしし四肢運動の知覚ー運動ループが再統合すされ病的痛みが緩和するの2点が提唱されている。
  • 鏡療法の持つ認知行動療法的意義
    • to identify levels of psychological distress 患者にとって何が苦痛であるか認識させる
    • to reconceptualize the patient's view of pain 痛みには身体因子と心理因子が常に併存しそれぞれの因子に対する治療の妥当性を教育する。さらに、痛みとは患者自身が克服するものであり、医療者が克服してくれるものではないことを理解させる
    • to be active processor (patient oriented) 治療は患者自身が行うものであって、治療の結果の責任を患者自身が持つように教育しそれを実践させる。この際、医療者は治療の妥当性安全性を保証する
    • to establish behabior goals 当面の治療目標を設定する。実現可能な治療目標を立案し、徐々に目標を高くしていくことが必要
    • to learn adaptive and coping skills 行動療法においては、痛みの原因が組織損傷に伴うという認識(急性痛モデル)から、有意義な日常生活を過ごす為に治療が必要であると認識させる問題解決型の”痛みとのつきあい方(coping)”をりかいさせなければならない
    • to bolster self-confidence 認知行動療法は主体的に取り組める治療法で自分自身の問題処理能力の向上を得られるものであることを教育し、なおかつ実際に患者が新しい適応能力の獲得を実感し自身の身体に対する自身の回復(自己効力感)が得られるように医療者は留意する
    • to consolidate the use of coping skills 痛みと痛みに関連した問題に対する対処能力を増強し、日常生活内での状況に応じてそれを実践できるよう指導する