細井昌子 痛みと薬物療法 臨床精神医学 2008;37(1):11-18

  • 慢性疼痛患者の特徴 患者の不快な痛み体験が問題であるのみならず、痛み体験に対する認知(疼痛認知)が破局的であり(破局化)、痛みを訴える行動(疼痛行動)が生活障害や家族や社会システムでの役割機能障害を引き起こし、本人をとりまく家族や医療スタッフにとっても困難な障害となっていること
  • 生物医学、精神医学的評価に加えて、認知行動学的見地から、慢性疼痛症例の独特な疼痛認知や疼痛行動を評価し生活障害や役割機能障害を治療対象とする必要がある
  • 急性疼痛 身体組織に何らかの障害が存在していることを示す警告信号 慢性疼痛 原因を除去したあとに続く痛み
  • 国際疼痛学会 1974 Bonica 設立
    • 組織に実際的あるいは潜在的な障害に結びつくかこのような障害を表す言葉をつかってのべられる不快な感覚情動体験である
    • この定義によれば、不快な情動体験であろうと末梢での侵害刺激の存在しない身体感覚であろうと、それを患者が痛みと感じ、痛いと表現すればそれは痛みと呼ばれることになる
    • 後述する痛みに関する神経回路が、情動に関する神経回路と元来密接なつながりがあり、感受あの訴える痛み体験が、郭松齢での生物心理社会的刺激に反応した患者の痛み体験の持続の歴史の中で通過矩形と情動系の神経回路が混線して形成された迂回路に基づいた臨床事象だと考えると、この痛みの定義の先見性に驚かされる
  • 下行性の痛覚調節系の存在
  • fMRI,PETによる研究
  • 末梢神経自由終末ー脊髄後角ー外側脊髄視床路ー視床ー体性感覚野S1,S2 いたも局在部位、強度、識別的評価を行う
  • 内側脊髄視床路ー視床ー前部帯状回を含む大脳辺縁系に広く両側性に投射 痛みの情動的評価を行う経路
  • 痛いという情報は、「どこがどのくらいの強さでどのようなパターンで」存在するのかという情報と、「生体に影響を与えうる何だか危険な状態になっている」ということを漠然としらせる情報が混在したもので、あり、それぞれ異なった部分の大脳皮質で認知している
  • 警報としてのサイレンが不愉快な大きな音で何か大変なことが起こっていると大まかに伝え(痛みの情動的認識:内側脊髄視床路)、ラジオなどで「どこで何が起こっているか」の詳しい情報が伝えられる(痛みの識別的側面:外側脊髄視床路)ことで、情報への対処がしやすくなるシステムがあると考えると理解しやすいであろう
  • 慢性な痛みをもつ患者さんの苦痛の辛さは、この不愉快なサイレンに苛まれていることにあるが、周囲の家族や医療スタッフがこのサイレンの不愉快さを実感することは困難な訳である。
  • 心療内科でおける心理療法は、ヒトの脳回路に存在する痛み、認知、情動、自律神経、行動の密接なつながりを基盤としており、治療者が言語的あるいは非言語的な患者への刺激を通して、各症例における独特な既存の神経回路の混線をいかに建設的に再構成していくかという観点でおこなわれていると考えられる
  • 帯状回、島皮質 痛覚、自律神経、感情、注意、言語に対して共通の機能を有している。この部位で痛み体験に伴う自律神経反応、感情、注意、言語に関する情報が集結し、痛みに関する患者の言語的反応あるいは行動形式を多様化している。
  • 以上の知見からも疼痛を訴える患者に対する治療としては、痛みを侵害刺激やそれに対する器質的変化の結果としてのみ捉えるのでは不十分であることが理解されよう。患者の個人的な体験に基づき神経回路が修飾された結果としての痛み体験に注目し、脳科学的な知識を理解した上で、さらに患者の苦痛に対する医療者の共感力や想像力を駆使して、病態を考えていくことが重要である
  • 痛みが外傷、炎症、腫瘍などの侵害受容ニューロンを直接刺激するような痛みである場合には、まずはその専門の身体科で医学的対処法を行うことが先決であることはいうまでもない。このような一般化した対処法を複数行っているにもかかわらず、痛みの訴えが持続している場合には、通常の生物医学的診断を超えて、脊髄より上位の脳の部位、特に大脳皮質などでの関与を視野に入れた脳神経科学的および認知行動的な観点が重要となってくる。(前頭前野扁桃体、前部帯状回、島皮質などの大脳の部位が患者の痛み体験に深く関わっている)
  • プラセボは痛みと関連する視床、体性感覚野、島皮質、前部帯状回といった脳内部位の活動性を実際に低下させる。
  • 痛みが起こることを予期している間には、プラセボによって大脳皮質の前頭前野と中脳の活動性が上がっている
  • 前頭前野の中でも背外側前頭前野という場所や前頭連合野の腹側部に広がり情動や動機付けに関与している前頭眼か野という場所が、報酬と予期に関連した認知のコントロールによる鎮痛反応に重要な役割を果たしていることを示唆
  • 前頭前野の活性化は、脊髄での侵害受容抑制を行う痛みの下行性抑制系へ繊維を送る中脳中心灰白質からのオピオイドの遊離を惹起するのではないかという仮説
  • 痛み体験の遷延化により疼痛行動が周囲とのコミュニケーションの主要なツールとなっていることがおおく、疼痛行動も減らすべき治療対象
  • 痛みのない時に治療方針を話し合っておき、疼痛時には情緒的な関わりを減らし、痛みのないときに肯定的情緒的な関わりを働きかけることが、適応行動の強化につながる
  • 疼痛行動に対して治療者が怒りや不快感をあからさまにすると、患者が問題を医療者の問題に転換して疼痛行動の維持に利用されてしまうので慎むべきである
  • 多面的評価 VAS, マギル痛み質問用紙の短縮版、brief pain inventory, PDAS