p43 細井昌子 複雑系の病 慢性痛を治療する

  • 近代医療の大前提である「痛みの原因を除去すれば痛みがなくなる」という発想で、医学的に、しかも良心的に対処されても痛みが改善しない症例がかなりの数世の中に存在する。
  • 疼痛の定義 痛みとは組織の実質的あるいは潜在的な障害に結びつくか、このような障害を表す言葉を使って述べられる不快な感覚・情動的体験である 1994
  • 急性疼痛には個人の健康回復への警告反応としての長所となるものの、慢性疼痛にはシステムの短所となり、多くの患者さんの痛みを複雑にしてしまうことになる
  • 疼痛閾値は個人や生理的状態の変化、病的状態の有無によって、かなり変化することが知られている
  • 侵害刺激は局在部位や強さの程度という識別的な情報として脳へと伝達されるだけでなく、複数のメカニズムで、直接間接にも関与し、個人の痛み体験を修飾している
  • 患者さんの情動への配慮を欠いた痛みの治療は片手落ちであり、いかに強い薬でも有効に作用しないということだ。
  • こんなに辛い痛みを周囲の人がわかってくれないという孤立感を患者が感じ、周囲との交流が妨げられ、患者を取り巻く家庭、学校、職場、医療現場で二次的な問題が生じていることが多い
  • 治療の原則は、望ましい適応行動を増やし、疼痛行動を減少させること
  • 急性の痛みは、生体内の異常を告げる警告反応であるが、慢性の痛みは生体内のさまざまなレベルの異常に加えて、痛みをもつ患者と関わる家族、学校、職場問いった社会システムの異常をつげる警告反応であることがある。痛みに対して、し得たいないシステムと社会システムといった、複眼的な視点で対応していく必要性を喚起し、市民の目線で望ましい医療システムの形成の必要性を提唱したい。