線維筋痛症症例に対するペインクリニシャンとしての治療戦略

中村耕一線維筋痛症症例に対するペインクリニシャンとしての治療戦略:汎発性筋・筋膜性症候群ととらえて治療を行った慢性痛の2症例 ペインクリニック
2014;35:1549-1556

  • 私はたとえ診断基準を満たしていても、他医で診断され、患者本人に告げられない限り、「線維筋痛症」をカルテの傷病名欄に記載しないようにしている。繊維筋痛症という病名を見聞きするたびに、この疾患概念が存在しなければならないのかと疑問に感じている
  • 一般的に看護職は頑張り屋で完璧主義の人が多いように感じる。看護職としては普通であっても、一般のレベルから考えると慢性痛に移行する気質を備えていたのかもしれない
  • 線維筋痛症については、全身の痛みを統合せず、顔面(口腔・咽頭部を含む)、頭頸部、上肢、体幹前面、腰下肢などに分けて、それぞれの部位の筋・筋膜疼痛症候群とみなして、主に筋肉痛を除くことに主眼を置いて治療するのがよいと感じている
  • 慢性痛による性格変化は、慢性疼痛性格障害として早期の精神科治療を勧めているが、これらは特に頸肩部および胸背部の筋拘縮が原因であり、発症早期にいかに筋拘縮を取り除くかが、性格変化をもたらすかどうかの分岐点になると考えている
  • 今回は、線維筋痛症を通して慢性痛を考えてみた。線維筋痛症という疾患はまだまだなぞが多いが、患者の話を聞くとともに、患者の体に触れ、筋肉の状態や皮膚温などを常に感じ取って治療していくことが重要であると思われる。患者の異変に早く気づくためにも傾聴とともに、触診を大切にしていきたい
  • コメント 細井昌子
  • 通常の一過性の筋肉痛に終わる症例と異なる慢性痛に移行しやすい気質として、看護職によくみられる「頑張り屋で完璧主義」の特性をとらえておられる点です。
  • 河の下流 最終的に診察室で表現される全身各所の痛み、疲労感、抑うつ感といった症状
  • 中流 強迫的な家事行動という行動上の特性
  • 上流 体の痛みが改善してくると、背景の気分変調や生育暦に根ざした不快情動(罪悪感、トラウマの記憶、自己否定感、嫌悪感など)を身体症状と別に実感できることがある
  • このような不快情動が耐え難いために「嫌気」を「気晴らし」するためになんらかの過活動を行い続ける
  • 実存的苦悩は身体の苦悩を凌ぐ苦しさであると表現できる
  • 数年にわたっての長い治療経過を付き合うこともある慢性痛では、治療経過中に様々なライフイベントを患者さんが経験します。そういった心理社会的因子は、少なからず身体症状の重症感や不快感を修飾しますが、その背景のありさまを語れない治療関係では、「ここでなぜ良くなったのか、なぜ急に治療が効くようになったのか」が医学的には理解できないことになります。「こんなことでも話してもいいのかな」と感じることでも話し合える関係性が、最終的には治療転帰の大きな差になることもあります。
  • 治療に伴い、幼少期のトラウマ体験や学童期のいじめ問題など、人間不信を形成する体験の影響が明らかになる場合もあります。
  • 身体的対処法が実際にはあるけれども、過活動による気晴らしをしないでよくなるように、もっとも上流にある不快情動に耐えられるようにマインドフルネスなどの心理的治療法を行う選択肢もあります。しかし、そのような心理学的治療では自分の内界に向き合う覚悟が重要ですが、十分な動機付けを行うことは、慢性痛の心身医療のもっとも重要な過程です
  • 最後になりますが、正直なところ、私自身も同様に線維筋痛症という病名を積極的にはつけない傾向があることを付け加えます