はじめに

  • 主な目的 (2015/12/31記)
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    • 慢性疼痛
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痛みの伝導路と侵害受容による脳反応

乾幸二 痛みの伝導路と侵害受容による脳反応 最新精神医学 2017;22(2):85-91

  • 侵害受容器
    • 閾値機械的受容器 特異的侵害受容器 nociceptive specific;NS  Aδ線維  脊髄第I層(Aδ)
    • ポリモーダル受容器 広作動域 wide dynamic range ;WDR C線維の自由神経終末 脊髄第V層(AβとC)
  • 前部帯状回の活動が感覚入力の種類にかかわらず共通
  • MelzackのNeuromatrix概念をあてはめるなら、これらの痛みに直接関連しない諸活動のバランスによって痛みが発生する
  • 痛みのメカニズムを明らかにするには、侵害受容視床核やそれが投射する第一次侵害受容野を含む侵害受容系を明らかにし、その経路のどこで痛みという内的体験が発生するかを再検討する方法と、そのような非特異的な構造はそもそも存在せず、様々な非特異的活動のバランスによって痛みが発生するものと考えて、広範囲の脳活動の時間的空間的活動パターンを詳細に調べる方法とがある
  • 侵害刺激による脳活動の意義
    • S1
    • S2
      • 島と前帯状回がタスク遂行に共通する部位であることを見出した
      • 動物実験では、島の侵害受容細胞は複数の感覚系からの同時入力を受けることが多く、感覚入力を統合して一定の意義を持たせるのではないかと想像される
      • 島が侵害情報の判別側面には関与せず、その後に生じる情動や行動ドライブに関わることを示唆する
      • 島が侵害受容に調節的に関与はしているもの、痛み発現に不可欠というわけでないことを示している
    • 前部帯状回
      • 前部帯状回に侵害入力特異的細胞群があるかどうかについては明らかになっていない
      • 少なくとも誘発脳波やfMRIで観察する前部帯状回の活動は、感覚入力による非特異的な活動と思われる
      • この活動はS2などの後期活動から約50ミリ秒遅れて生じ、刺激頻度に顕著な影響を受けるので、各感覚系の変化(新奇刺激)検出を受けて活動すると思われる
  • 自己意識と島と前部帯状回
    • 前部帯状回破壊
      • 特徴的なのは痛みとう感覚に対する陰性の情動が減少すること
      • 難治性うつ病にも有効 有効な破壊部位は前方の情動領域でなく、認知領域である(24/32野)
      • 副作用 自発性や内省、情動反応の鈍化とそれに伴う行動の減少
    • 前部島が自己環境の意識と感情形成に関わることを示唆
    • 自己意識形成に島ー前部帯状連合が重要な役割を果たしていると考えることができる
    • 離人症 島の活性化が有意に減少

痛みと睡眠問題

井上雄一 痛みと睡眠問題 最新精神医学 2017;22(2):109-115

  • 睡眠と睡眠障害両者の併存は病態を双方向に悪化させる悪循環を形成する可能性がある
  • FM患者のQOL改善のためには睡眠障害の理解と対応が必須事項であると考えられている
  • FMでの自覚的な睡眠障害 45-90%
  • FM患者の不眠症状は自覚症状に比べて他覚的な障害度は低く、両者が乖離しやすい傾向(睡眠状態誤認)が存在する可能性があると考えられる
  • FMの不眠症状は、総じてベンゾジアゼピン類もしくはBZP受容体作動性への治療の反応性は不要
  • FMでの自覚的な不眠症状と疼痛症状両者に対して有効性が確認されているのは、GABAトランスポータ作用を有しGABA神経促進性に働くα2δリガンドpregabalinであろう
  • 本剤には不眠症状の強い患者の深睡眠を増やす作用が存在することが推測されるので、この特性がFMでの不眠に対して効果的に働く可能性があるだろう
  • 全体的な印象としては、FMでの睡眠障害の症状は、身体表現性障害での不眠がより重症かつ治療抵抗性になったものとの印象を強くうける

痛みと情動の生物学的基盤

加藤総夫 痛みと情動の生物学的基盤 最新精神医学 2017;22(2):93-102

  • 痛みのマトリクス 1-4の総体が、我々の痛み体験を形成すると認識されるに到った
    • 1 あらゆる痛みに共通の単一の「痛み中枢」は存在しない
    • 2 むしろ、侵害受容入力は、きわめて多くの広範な脳領域を分散的に活性化する
    • 3 予想に反して、図1にあるような「古典的痛みの経路」の活性化PTTは相対的に低い
    • 4 さまざまな痛みの状況(たとえば誘発痛と自発痛)や、異なる種類の痛み(たとえば慢性痛と急性痛)ごとに、活性化する領域は異なっている
  • 痛みで活性化する脳領域
    • 1 意識の流れやワーキングメモリとしての中心的役割を担う前頭前皮質
    • 2 有害情報によって成立する恐怖学習などの中枢である扁桃体
    • 3 報酬予測・意思決定・共感や情動といった認知機能に(特にヒトにおいて)広く関与する前帯状回皮質
    • 4 痛みの認知的体験や喜怒哀楽・不快・恐怖などの感情体験に関与する島皮質
    • 5 報酬や快感に関与する側坐核
    • これらの部位は痛みだけに限らず、いわゆる「意識」「情動」「報酬」などの機能、あるいは、広い意味でのヒトの情動に関与する代表的部位が含まれている
  • 扁桃体は、侵害受容によって誘発される情動学習である「条件恐怖反応」の獲得における中心的脳部位であることが確立している
  • ヒト扁桃体は、恐怖・不安・抑うつ・嫌悪などの「陰性情動」に関与すうるとともに抗うつ薬の重要な標的である
  • ヒトの先天性両側扁桃体障害は恐怖情動の認知の低下や、対人距離に対する評価異常などをもたらす
  • 心的外傷ストレス障害(PTSD)患者の扁桃体は機能的・形態的異常を示す
  • 対人関係に障害を持つ広汎性発達障害にも扁桃体の関与が示唆されている
  • 「直接」神経連絡はBernardらのグループによって同定され「脊髄ー腕傍核ー扁桃体路」と呼ばれている
  • 扁桃体中心核外包部は侵害受容性扁桃体と呼ばれている
  • 脊髄ー腕傍核ー扁桃体路が、視床や皮質などの一般体性感覚と同様の分析過程をバイパスして、直接的に「有害性警告」情報を脳に誘発させる機構である可能性を示している
  • 外側上行路(外側視床核ー体性感覚皮質) 痛みの感覚・弁別的要素
  • 内側上行路(内側視床核ー前帯状回皮質) 痛みの情動的要素
  • 第3の経路 脊髄ー腕傍核ー扁桃体路 侵害受容情報の生物学的本質である「有害性を生体に警告する」という機能に直接関与する古い系であると考えられる
  • 痛みは非常に強力な脳内可塑性誘発性因子であるといってよい
  • 情動の中枢とされている扁桃体の活動が、末梢の侵害受容閾値を調整している可能性を示唆

慢性疼痛の臨床に必要な心理社会的評価尺度 MPI

笠原諭、松平浩、荒瀬洋子、村上安壽子、高橋直人、矢吹省司 慢性疼痛の臨床に必要な心理社会的評価尺度 MPI 最新精神医学 2017;22(2):103-108

  • MPI;Multidimentional Pain Inventory
  • 認知行動療法を慢性疼痛患者に適応する際に、直接的にターゲットになるのは、痛みの性状そのものでなく、そうした症状に影響を及ぼしている行動、認知、感情、環境などの媒介要因であり、こうした変数に変化を生じさせる方法を導入し、間接的に痛みの症状を改善させることが目的となる
  • そのため認知行動療法の効果を高める際には、どのような媒介要因をターゲットとするかを明確にし、ターゲットに適合する治療技法を選択することが重要となる。
  • また認知行動療法の効果は治療を行う対象やその時の状況において影響を受ける可能性があり、そうした治療効果の調整要因を明らかにすることによって、認知行動療法の効果を高めることや認知行動療法の効果がみられない患者の同定が期待される
  • 媒介要因
    • 生活障害の改善を導く変数 恐怖ー回避に関する信念、破局思考、痛みに対するコントロール
  • 調整要因
    • MPIの3分類 Dysfunctional/Interpersonally Distressed/Adaptive Cooper
    • Adaptive Cooper 痛みや情緒的な苦痛が低く、高い生活管理能力を有しているために適切なアドバイスのみででも行動変容を起こしやすい
    • Dysfunctional 家族などの重要他者が患者の痛み行動に対して気遣いや義務の肩代わりなどの過保護な反応を示すことが多く、これを減じる介入(オペラント行動療法)が必要
    • Interpersonally Distressed 重要他者から責められるような生活状況にあり、痛みで自分を罰することで批判を免れようとする傾向があるため、自己主張訓練のような対人技能の獲得が必要
  • MPI
    • 全61項目 3つのセクション
    • セクション1 28項目 痛みの影響を評価
    • セクション2 14項目 重要他者からの痛みに対する反応を評価
    • セクション3 19項目 患者の活動を評価
    • MPIの徳に優れている点としては、重要他者である家族や良かれと思い行っている支援が、図らずも患者の痛み行動を強化してしまっているかどうかを、セクション2で評価できること

痛み診療における森田療法の役割

平林万紀彦 痛み診療における森田療法の役割 最新精神医学 2017;22(2):131-137

‐身体因の有無を問わず痛みがこじれるときは「痛みを嫌うと痛みに注意が向いて」「痛みに過敏になり」「痛みを恐れてますます注意を向きやすくなり」「さらに過敏になり苦痛が強まる」というように心身は一体化して不快感が強まっていくので、身体因と心因を厳密に区別するのは臨床的に役に立たず心身双方のケアが必要になる

  • 森田療法の適応 特に内向性、過敏、心配性、完全主義、理想主義など神経質性格とよばれる性格者に有効- 森田療法は、痛みとともに生き、生活を豊かにしていくことで、”あっても平気な痛み”に転換させる援助となる- ほかの精神療法と同様に意識障害を是正したうえで本格的に取り組みたい
  • 痛み治療の目的は、我慢しがたい痛みによる障害からの回復を目指す必要がある- 痛みの強さはさほぞ変化はなくても患者の生活に張り合いが出てくると痛みはさほど気にならなくなり、治療を今以上には求めなくなるものだ
  • 医療者としては、失望しながらもこれまでの痛みをよく奮闘してきたことを称えたうえで、提供できる医療を謙虚に提案していくことが治療を継続する上でも役立つ
  • 森田療法の効能
  • 精神交互作用 痛みがあることを案じ、痛みにひどく怯えることで痛みに注意が向き過敏になり、さらに痛みが辛いものとなるため益々痛みに注意が向きやすくなる
  • 思想の矛盾 痛みは有害で厄介なものだからなんとかしてコントロールしすぎて、そこに不可能を可能にしようとする葛藤が生じことで益々痛みが苦しいものになる- この二つ 慢性痛患者に生じやすい心理的な悪循環を”とらわれの機制”とよぶ- その裏には健康に生きようとする人間本来の欲望が存在 生の欲望
  • こうしたとらわれから脱却するためには痛みを排除しようとするはからいをやめ、そのままにしておく態度を養い、同時に、生の欲望を活かし建設的な行動につなげていけるかどうかが鍵になる
  • 森田療法の痛み診療手順
  • 観察する
  • 1. 痛みが嫌なのは自分が健全だからこそ [生の欲望を発見する ]
  • 2. 痛みのコントロールは難しい [感覚の自覚を促す]
  • 3. 怠けではなく頑張りすぎて苦しくなる [悪循環を明確化する]
    • とらわれの機制(精神交互作用、思想の矛盾)に着目する
  • 選択する
  • 4.本当に肝心なところに注力する [目的を見出す]
    • 痛みのためにこれまで諦めてきたことにも焦点をあてる
  • 5. やり過ぎないで、ほどほどのペースを作る [行動や生活のパターンを見直す]
  • 活かす
  • 6. 痛みと闘わず自分が今できることに没頭する [今に焦点をあてる]
    • この瞬間に何が重要かを考え、今ここに集中してその場と一体化する状態をつくる
  • 7.小さな一歩を積み重ねる [危機への直面化を支持する]
    • ここで大事なのは何でもいっぺんにやろうとせず、小さな成功を積み重ねることである
  • 8. あるがままに行動する姿勢を身につける [建設的な行動を継続するよう促す]
    • 危機にあって転ぶのは自然の摂理であり、転ばないことに力を入れるのではなく転んだ後にどう立ち上がるかに注力することで粘り強さが培われる
    • その際、自分は痛みも苦痛も感じる弱い人間であることをあるがままに受け入れると、痛みよりも大事な生活上の課題に手を出しやすくなる
  • 9. 治療は一進一退しながら前進していく[ 患者い寄り添い続ける]
    • 実際、治療の過程はらせん階段を昇るようなもので、同じ風景が繰り返し現れて堂々巡りをしているようにもみえる。しかし、避けてきたことに恐る恐る、とりあえず手を出し、足を出し続ければ確実に治療の階段を昇り、あるところで突然視界がひらけるような実感が得られる。つまり痛みがあっても過ごしやすくなることで生活はうまく回るようになり結果的に楽になるのっだ
  • 痛み診療においては、「痛みの原因探し」や「痛みの除去」にとらわれ過ぎることによってかえって見えなくなる事柄が思いのほか多い。痛みという曖昧なものは曖昧なものとして扱い、治療の焦点を"痛みの除去"から”ありのままの患者本人の強みを活かす”関わりに転換することが、時として、行き詰った治療を打破する契機となる

慢性疼痛と幼少期の体験

慢性疼痛と幼少期の体験 ペインクリニック 2017;38(8):1025-1026

  • 幼少期の体験が成年後に与える情動行動面への影響について、近年、医学領域でも注目されてきている
  • 知的障害については、その後の英国のあたたかいケアを受けるなかで改善したが、6ヶ月以上の長期間、劣悪な環境で生育された群では、自閉症傾向、脱抑制、注意障害と多動については各観察時点で有意に高いスコアとなっていた。さらに興味深いことに、観察の3群で15歳時までは情緒障害の差は目立たなかったが、22-25歳のヤングアダルトの時期になると、幼少期に6ヶ月以上の劣悪な環境にいた群で、情緒障害のスコアが急激に上昇していた
  • 言い換えると、「幼少期に温かみのある養育をうけていないとIQはその後のケアで改善できるが、EQにおいては成年後に問題が生じる」ともいえるであろう。(IQ: 知能指数 EQ:Emotional Intelligence Quotient こころの知能指数)
  • 慢性疼痛の難治症例は知的には優れていることも多いが、情緒的な苦しみが成年後に発症し、睡眠障害や情緒的な問題が持続していく経過中に痛みが発症していることも多い
  • 人生の様々なステージで適応努力を続けるうちは意識的な活動で紛れている過去の苦悩が、20歳、40歳、60歳といった人生のステージが変化した後の平穏な時期に、器質的・機能的な身体の痛みに加えて、過去のトラウマ体験にまつわる脳活動が安静時の脳活動に混線し、より不快な心身の痛み体験となる可能性があると筆者は考えている