慢性疼痛

 慢性疼痛は従来精神科、心療内科で取り扱われている。外国ではpain management centerで集学的治療が行われている。丸田俊彦医師は慶応卒でMayo clinicのpain manegement centerの創設時にレジデントとして参画。現在 埼玉県立精神医療センター院長。下記が医中誌等から検索した主に邦文の論文リスト

  1. 丸田俊彦:痛みの心理的側面 - 特にpain behaviorについて 精神医学 1976;18:1059-1064
  2. Maruta T:Drepression associated with chronic pain: incidence, characteristics, and long-term outcome. Keio J Med 1989;38(4):403-412
  3. 丸田俊彦:慢性疼痛の概念と薬物療法 精神神経薬理 1992;14(6):391-398
  4. 丸田俊彦:慢性疼痛の診断をめぐって 慢性疼痛 1993;12(2):211-222
  5. 丸田俊彦:心因性疼痛の診断と治療 精神科治療学 1996;12(1):21-26
  6. 丸田俊彦:慢性疼痛理論をめぐって 精神科治療学 2000;15(3):261-267
  7. 丸田俊彦:高齢者の慢性疼痛 老年精神医学雑誌 2004;15(3):312-316
  8. 丸田俊彦:高齢者の疼痛性障害 診断と治療 老年精神医学雑誌 2006;17(2):184-189
  9. 丸田俊彦:自己心理学からみた自己愛とその病理 精神療法 2007;33(3):273-279
  10. 丸田俊彦:痛みの精神医学 臨床精神薬理 2007;10:191-196

丸田医師は、中公文庫935 痛みの心理学 を書かれているが、絶版。アマゾンの古書では約5000円! 図書館でたまたまかりることができたが、できれば購入したいものだ。

文献#10より

  • 疼痛障害
    • DSM-I,IIでは心理生理的障害と診断されることがおおかったが、1994年のDSM IVでは疼痛型障害 pain disorderへとその名称を変え、少なくとも痛みの原因は心という現象は書き換えられた。
  • 精神科が扱うほとんどの慢性疼痛は、medically unexplained chronic painであるだけでなく、厳密にはmedically and psychiatrically unexplained painと考えるべきである。
  • 本邦の慢性疼痛治療
  • 慢性疼痛 行動療法理論
    • Fordyce 1973
    • 慢性疼痛患者の臨床像を、知覚としての痛みと、その疼痛体験をめぐる随意行動に分けた。後者を痛み行動 pain behaviorsと呼び、それを治療対象とした
    • 痛み高度は、急性の痛みの場合、主として痛み刺激により規定されるが、慢性疼痛では主として、痛み行動に対する周囲の反応によって規定されるようになる。
    • 治療のゴール
      • 慢性の痛みがある人を慢性疼痛患者にしているのは痛み行動であるから、痛み行動の減少は、慢性疼痛患者を慢性疼痛を持った人に変える
      • 痛み行動を強化しているのは周囲からの報酬であるから、痛み行動に対しては中立的な反応で臨む
      • 健全で適応的な反応に対しては陽性のフィードバックを与え、それを強化する
      • 痛み行動の強化には家族は一役買っているので、家族が中立的な反応をとれるようお手伝いする
  • 慢性疼痛 認知行動療法 Turk 1984
    • 痛み行動を保持しているのは周囲の環境からの反応だけではない。それに加えて、あるいはそれ以上に、患者の思考や情緒が大きな役割を果たしている。特に疾患や症状に対する患者の確信は、周囲の環境からの反応が患者にとってなにを意味するかを大きく左右するので、患者の中で、痛みに関する認識が大きく変わらない限り、適応的な行動の増加は臨めない。同様にして、いったん獲得された適応行動を保持するのは、周囲の環境からの反応だけでなく、むしろそれ以上にk患者の思考内容(動機付け、確信、自信、適応能力など)である。
  • 慢性疼痛理論をめぐり筆者が確信をもっていえること
    1. 心と体は、われわれが考える以上に近く、切り離せないものである
    2. 患者の訴えが、慢性疼痛も含めて、患者の病理だけに起因するものではない
      1. 随意行動は周囲からの反応や、思考内容・感情によって規定されるし、痛みという知覚を主観的にどう体験し、その体験をどう表現するかは、周囲の人的環境との相互作用によって決まる

文献#1

  • 知覚としての痛みは、完全に、そして永久的に個人的な体験であって、他人の痛みを推測することはできても、感じることはできない
  • 痛みの知覚は、視覚、聴覚と同じように、過去の記憶を呼び起こす
  • 痛みが本物なのか、あるいは気の病なのか、ということでなく、どのくらいの疼痛知覚に、どの程度の疼痛顕示行為を示しているかであって、患者にとって、すべての痛みはまさに痛いのである。

文献#3

  • 痛みの患者の不安 その最大の原因は無知からくる憶測
  • 痛みにも関わらずある程度の運動を続け、ほぼ正常と変わりない生活を維持するためには、ある程度、体に対する知識、そしてストレスの乗り切り方の知識が必要である
  • 痛み行動の強化を最も頻繁にまた強力におこなっているのは家族、とくに配偶者である

文献#6

  • alexithymia 感情表出言語喪失症
    • 慢性疼痛患者は自分の気持ちを表す言葉をもたず、痛みでそれを表現している
  • DSM IV 痛みの原因が心理的要因であことを示唆する形容詞が排除された
  • 心と体は我々が考える以上に近く、切り離せないものである
  • 随意行動は周囲からの反応や、思考内容感情によって規定されるし、また痛みという知覚を主観的にどう体験し、その体験をどう表現するかは、周囲の環境との相互作用により決まる

文献#7

  • 10分間の軽い運動ができるという自信が、そして、その運動効果が、高齢者の生活を根底からかえることすらありえる

文献#8

  • 慢性疼痛にはまず例外なく精神的な要素が含まれる。しかし、その事実と痛みは精神的なものであるということはイコールでない
  • 高齢患者の場合、配偶者の喪失を巡る情緒的変化は痛みを悪化させ、逆に抑うつの改善は、患者の日常機能と痛みの改善につながる
  • 痛み行動を保持しているのは周囲環境からの反応だけではない。それに加えて、あるいはそれ以上に、患者の思考や情緒が大きな役割を果たしている。とくに疾患や症状に対する患者の確信は、周囲の環境からの反応が患者にとって何を意味するかを大きく左右するので、患者の中で、痛みに関する認識が変わらないかぎり、適応的な行動の増加は望めない。同様にして、いったん獲得された適応行動を保持するのは、周囲の環境からの反応だけでなく、むしろそれ以上に、患者の思考内容(動機付け、確信、自信、適応能力など)である。