慢性疼痛の病態と機序

柴田政彦 慢性疼痛の病態と機序 journal of clinical rehabilitation 31(4):347-351

  • 慢性疼痛とは、「外傷や疾病が治癒した後も続く痛み」あるいは「3ヶ月ないし6ヶ月続く痛み」と定義されている。多くの病気や外傷に伴って痛みが生じ、時として慢性化する。慢性疼痛の概念はやや曖昧であるのは事実であり、明確に定義するのは無理があるが、「身体の危険と釣り合わない痛み」と考えるとわかりやすい
  • 神経科学の進歩によって痛みの慢性化の仕組みの解明が進んだことは事実ではあるが、そのほとんどは動物実験に基づいたものであり、実際の慢性疼痛患者に当てはまるかどうかは確かめられていない
  • 痛みに関連する脳内機序は古くから知られており、痛覚伝達に関する視床、前部帯状回、島皮質、二次体性感覚野等が関わると考えられてきた
  • しかしこれらペインマトリックスと呼ばれる脳内部位は新奇的な視覚や聴覚等痛み以外の感覚によっても活動することが示され、saliency networkとほぼ一致する。ペインパトリックすは、馴染みのない新奇的な刺激、言い換えると生体にとって危険なさまざまな刺激に気づく過程で生じる共通の脳の反応と解釈できる。つまり、危険を察知して回避することに関連した受動的な脳の反応である
  • 一方、運動時痛という能動的な痛みは、危険を回避することが学習したり創傷の治癒を促進するために運動を抑制するために備わった仕組みであると考えられるので、saliency networkとは異なる脳内機序が考えられる
  • 同じ「痛み」であっても今までの研究が扱ってきた外的な刺激に伴う痛みと能動的な動きに伴う痛みとでは関与する脳部位が異なっており、運動時痛の脳内機序がさらに明らかになれば、運動療法が慢性痛の治療に効果をもつメカニズムの解明につながることが期待できる