高齢期の心因性(慢性)疼痛に対するアプローチ

青山幸生、牧裕一、木造理枝、小竹良文:高齢期の心因性(慢性)疼痛に対するアプローチ. 老年精神医学, 27:1046-1051,2016.

  • 痛みは、個人のもつ意識内容そのものであり、きわめて主観的な事象である
  • 痛みの治療には、全人的(身体・心理・社会・実存的)にその患者を理解しようとする態度が必要であり、最終的には心因性、器質性を超えた”今、ここ”に生きている人間そのものとしての理解が必要である
  • 高齢期の場合、身体的基礎疾患の有無を始めとして、認知機能の低下や精神障害の有無、生活歴、生活環境、生きがいなどにより痛みの訴えに大きなさが見られる
  • とくに、性格や気分障害の有無、うつ状態認知症の有無、その程度によっては、痛みに訴えが過度になったり、過小になったりもする
  • 痛みは、個々の持つ意識内容そのものであり、まったく主観的な問題であるため、少なくとも個人にしか理解しがたい事象で、正確に心因性と器質性を分けることが困難であるが、いわゆる心因性疼痛と呼ばれるものは、すくなくとも明らかに心因性(脳における痛みの解釈の誤作動)が有意であると治療者が判断できるような病態を呼ぶものだろうと考えている
  • 原因が上記位のいずれであろうとも、患者は自分自身の身体のどこかの場所を借りて、また、さらに「身体の痛み」として症状を訴えるため、高齢者に限らず、いわゆる心因性疼痛の治療は難渋するケースが多い
  • 高齢者の心因性疼痛においては、幼児期の不幸な体験や戦争体験、心的外傷体験など過去の精神的トラウマが病気の発症や維持にすくなからず影響する場合が認められるが、一方、現在の心理的葛藤、家庭内の問題、人間関係、経済的問題などの社会的要因が関与している場合も多い
  • 患者という氷山の上に実際に見える「痛みという症状」の水面下に、実は見えないかたちで隠されたこの実存性の問題はすくなからず高齢者の痛みの発症、維持に関与しているものと思われる
  • 痛みの解決には、水面下に潜んでいる患者個々の実存性へのアプローチが必須であり、そのことにより、少しでも患者自身の持つ「痛みの意味」「苦痛の意味」を全人的に理解することが可能となる
  • まずは簡単で、安全な身体的な診察・治療を施行しながら、同時に患者の心のなかに渦巻いている怒りや不安、後ろ向きの態度などを吐き出させ、浄化することが疼痛治療においては最初に行う、なによりも重要なアプローチであり(心の浄化)、以上の過程で初めてお互いの信頼関係が構築でき、痛みの本質でもある氷山の水面下に隠された部分(患者固有の問題、資源)へのアプローチが可能となる