身体苦痛または体験症群   身体苦痛症

山田和男 身体苦痛または体験症群 精神医学 2019;61(3):285-292

  • ICD-11によれば、身体苦痛症(bodily distress disorder)は、患者が苦痛を感じ、過度の注意が向けられる身体症状を伴うという特徴を持つ疾患であると定義づけられている
  • 過度の注意には、症状の重要度やそれらの否定的な結果への固執を含み、医療的に必要とみなされる範囲をはるかに超えて、身体症状に関連する医療機関を何度も受診する行為に表れることがある。
  • 付加的特徴
    • よく見られる身体症状は、痛み、疲労、胃腸および呼吸器症状
    • 患者は、症状をかなり具体的に述べている場合が多いが、臨床医がその症状を解剖学的あるいは生理的に説明することが困難であることがある
    • 患者は、しばしば自身の身体症状について重篤なものであると思い込み、最も極端で否定的な結果について思い悩む
    • 患者は、自らの症状について、心理的および身体的なものも含め、さまざまな理由付けを行うことがある
    • 患者の中には、身体症状の根底には、発見されていないだけで、身体症状や障害が隠れていると信じるものもいる(疾病確信)
    • 患者は、精神保健サービスよりも身体診療科を受診することのほうがはるかに多い
    • 抱えている問題に心理的要因があると認めたがらない場合があり、精神科への受診を勧めると嫌がる場合もある
    • 患者はしばしば、以前にうけた医療ケアに対する不満を示し、受診先を頻繁に変えることがある
  • 重症度 軽度、中等度、重度の3つの重症度にわける
    • 軽度 症状に集中する時間は一日に一時間未満である
    • 重度 医療機関への受診が患者の生活の中心となり、身体症状やその否定的な結果がほぼ唯一の関心事となる。
  • 身体完全性違和 body integrity dysphoria
    • 持続性の不快感を伴うある特定の身体的障害を持ち続けるという欲求、または身体障害のない現状の身体構造に関連する強い不適切な感情によって明らかにされる、患者の身体面における障害を含む
  • 身体苦痛性はICD-10の身体化障害、鑑別不能型身体表現性障害、身体表現性自律神経機能不全、持続性身体表現性障害に対応
  • 身体完全性違和はICD-10にない
  • 身体苦痛症では、身体疾患の存在の有無にかんする規定については曖昧で、問題となる症状を引き起こしている身体疾患があったとしても、症状に向けられる注意の程度が明らかに過剰であれば、診断することが可能となっている
  • かつての身体表現性障害(ICD-10,DSM-IV-TR)では、身体化症状の存在が診断の際のキーワードの一つであったが、ICD-11の身体苦痛症を診断する際には、身体化症状の有無は問われないということが、最大の相違点であろう
  • 身体苦痛症では、診断の際に、患者の身体症状に過度の注意が向けられていることに重点が置かれており、身体化症状の有無は、診断の歳の必須条件ではない