痛みと共感

納富貴、納富壽、入江慎一郎、田中正利、オズジャン日香里、松浦賢長、荒堀憲二、宮原忍 痛みと共感 思春期学 2009;27(1):45-52

  • 社会生活を重んじるヒトでは、孤立すると心に鈍い痛みを感じる-この心の痛みもまた、前帯状回で感知される。
  • 心の痛みを伴う疎外感を回避する行動選択の根拠が倫理観となったことも適応的である
  • 他者の心を読み取り、同調することを共感という
  • 痛みの共感は近親者に限定される反応ではなく、共感する側が、他人の痛みを自分に置き換えることができてはじめて、疼痛を自覚する領域である体性感覚野までも反応することが証明された
  • 本稿では共感を「身体感覚(痛覚)の経験を礎に感覚・情動・認知が相互に仮想体験された状態」と定義する
  • 扁桃体は情動を記憶する。社会的生活を送る生物では利己的個体は排除されるが、その前に制裁をもって教育される。利用される感情のひとつは恐怖感である
  • 仮想化が身体運動と独立をする(自他分離能力が完成する)5歳から7歳のころに、自分の母親が苦しむ場面に遭遇しても動揺を示さない児童は、のちに反社会的行動をとる可能性が高い-つまり、臨界期までに発達していない痛みに対する危惧感の喪失ー扁桃体機能異常ーは、その後も発達しない。これらは、脳内共感ネットワークの行動に関する重要な一部を扁桃体が担っているという裏付けである
  • 逆に正常人では、強烈は情動記憶は幼少時に形成されることが多く、いったん成立すると修正がむずかしい。
  • cyber ball game 強く疎外感を感じた被験者はよりつよく前帯状回(二次痛、慢性疼痛を自覚する領域)に反応が認められた
  • ミラーニューロン 一部は運動性言語野であるブローカー野に認められた-5-7歳までには、身体運動と独立した仮想化が完成する
  • 模倣には、同期現象、同調作用、随伴現象、応答という概念が混在する-共感を強化する働きに同調作用がある-ラポール(親密な信頼関係)が確立されている人間関係でも、動作の同調性が確認されている
  • Rosenthalは、お互いに対する心の傾注、肯定的な感情の共有、そして非言語的同調性をもって、ラポールが成立すると述べている-共感能力は女性のほうが高い
  • その理由
    • コミュニケーション能力の差、テストステロン仮説、エストロゲン仮説、オキシトシン仮説、脳梁膨大部、前交連の解剖学的大きさの差仮説、セロトニン神経系による自我制御仮説、自我確立仮説--共通する肉体的痛みの体験(月経、初交、妊娠、出産、母乳吸引など)が男性に存在しないことを、男性が共感能力において女性に劣る理由として挙げる
    • 男性は、共通する痛みの体験がなく、それぞれが体験した痛みが海馬や扁桃体に蓄積されているため、痛みの記憶の個人差が大きい。よって、女性に比べて少なくとも痛みに関する共感が生じにくい
  • 痛みの共感は、痛みに関する共感だけを意味するのではなく、共感能力全般を左右する。それは、ヒトとなって急速に進化してきた能力であり、成長の初期段階で形成されなければならないという点も改めて強調しておく
  • 負の共感といえる煽動もヒト独特の行動様式である