自閉症スペクトラム症におけるトラウマ・ストレス・痛みと自己感

綾屋紗月 自閉症スペクトラム症におけるトラウマ・ストレス・痛みと自己感 トラウマティック・ストレス 2015;13(1):23-33

  • ストレスやトラウマとは、予期に対する脅威として定義できる
  • 痛みは2つの自己感-(内蔵制御信号ー内臓感覚ー運動制御信号ー自己受容感覚ー外受容感覚)の統合パターンである「感覚ー運動ループとしての自己」と、エピソード記憶と概念的自己が統合された「自伝的記憶としての自己」ーという観点から分析することができる
  • 帰属的推論に関する二段階モデルでは、帰属的推論の過程は、はじめに同定(identification)、続いて帰属(attribution)という二段階を経て処理されると考えられている。そしてその二段階に用いられる神経回路のそれぞろが、2つの自己感を担っている
  • 他者の行動は自己の行動と異なり、多くの場合、統合パターンのうち視聴覚フィードバックしか観測できないが、その観測内容に自己の統合パターンを適応することで、観測されない他者の運動指令や感情が推測される。これが同定である
  • ASDの運動制御 1.運動制御信号ー自己受容感覚フィードバック、2.運動制御信号ー資格フィードバックというふたつの運動制御系のバランスにおいて、1への依存度>2への依存度となっている。1への依存度が高いほど、社会性が低く、運動模倣が苦手な傾向
  • このような感覚運動レベルの問題は、神経障害性疼痛患者と類似している
  • 同定段階が感覚ー運動ループとしての自己を利用するのに対し、帰属段階は自伝的記憶によって定義される自己を資源として活用する
  • ASD 過去の想起を促した時、抽象的な想起はできても具体的なエピソードは想起しにくい過剰一般化と呼ばれる傾向が報告されている
  • ASDでは、感覚ー運動ループだけでなく自伝的記憶としての自己もまた十分に統合されておらず、それを裏づけるようにASD児では、自伝的記憶の神経基盤とみなされているdefault-mode network(DMN)内部の機能的なまとまりが弱く、それが重症度と相関していることが明らかになっている
  • このように概念的自己に内閉した反芻の締め付けるような痛みと、エピソード記憶の大量フラッシュバックによる衝撃の痛みがともに、日々、筆者を苦しめていた。こうした状況は、概念的自己とエピソード記憶の統合不全の問題として、ある程度説明可能かもしれない