- 身体イメージ 「自己の全身について、ヒトが形成する心的な画像」 アメリカ心理会
- CRP患者が主観的に感じる「身体の大きさや形態の歪み」と痛みの関連性に関する議論が盛んに行われている
- 過去の臨床研究においてCRPS患者は主観的な手の大きさを実際の手よりも大きく感じている傾向にあることが明らかにされている
- CRPSにおける患肢の拡大された身体イメージは痛みを増悪させることが考えられた
- 罹患期間が長いものほど主観的に感じる手の大きさを大きく見積もってしまうことを明らかにしている
- このように、拡大された身体イメージが痛みという主観的な経験に悪影響を及ぼしていることが明らかにされている
- 過去の研究では、このような身体イメージの拡大という現象は、身体の局所の感覚麻痺によって生じることが報告されている
- Peltzらは、CRPS患者の身体イメージの拡大の程度と二点識別覚の閾値に正の相関があることを明らかにしている
- これらのことからCRPSにおける体性感覚の障害が身体イメージを拡大させ、そのことがCRPS患者の痛みを助長していることが考えられる
- 体部位再現の不明瞭化の原因の一つとして、体性感覚入力の減少が考えられる
- 痛みを避けようとすることによる患肢の不動によって身体からの体性感覚入力が減少し、一次性体性感覚野の脱抑制が引き起こされる結果として、体部位再現の不明瞭化が生じるというプロセスが存在することが考えられる
- そしてこのような一次体性感覚野の体部位再現の不明瞭化が、患肢の表象されているニューロンの総数を増大させ、「身体が大きくなった」「身体が腫れている」などの拡大した身体イメージの経験を引き起こすとかんがえられる
- 以上のことをまとめると、CRPSにおける痛みの増悪を引き起こす身体イメージの拡大は、体性感覚入力の低下に伴う一次体性感覚野の脱抑制によって引き起こされる体部位再現の不明瞭化によって生じる
- 拡大された身体イメージの改善 触覚識別課題
- 触覚の識別は「身体を見る」ことによってさらに向上する
- この「身体を見ること」による知覚の向上は、一次体性感覚野の皮質内抑制を増大させることや、体部位再現の明瞭化を促進させることによるものであることも脳波やMEGを用いた実験によって明らかにされている
- 身体を見ることによる効果は、痛みの感覚にも影響を与えることも明らかになっている
- 身体を見ることは痛みの閾値を増大させることも報告されている
- 身体を見ることによる鎮痛効果は、一体性感覚野の皮質内抑制だけでなく、有線領外身体領域(extrastriate body are, EBA)や頭頂連合野の活性も必要であることが明らかにされている
- 身体をみることによる鎮痛は、自己身体の認識をも含めた多種感覚の相互作用によるものであると考えられている
- Hassel ら 見ている身体に対して、「この身体は私のものである」という身体所有感を感じれば感じるほど、身体をみることによる鎮痛がえられやすことを報告している
- 痛みという主観的な体験は、自身が置かれている文脈や情動のプロセスが統合されたものとして体験されることから、今回紹介したようなアプローチを慢性疼痛患者に対して実践する際には何らかの工夫が必要であると考える