慢性痛の脳内メカニズム

森山周 慢性痛の脳内メカニズム 体躯の科学 2017;67(8):573-578

  • 痛みの多面性
    • 感覚的側面、情動的側面、認知的側面
  • 内側前頭前野
  • 背中外側前頭前野 DLPFC
    • 目標を決めて行動するなど、ワーキングメモリに関与する領域
    • 慢性腰痛患者では、ここの容量が減少
    • 筆者らは背中外側前頭前野を経頭蓋直流電気刺激(tDCS:transcranial direct current stimulation)によって賦活させると、賦活前に比べて痛みの不快感が減少することを明らかにした
    • 背中外側前頭前野が鎮痛を期待すると活性化する、そして鎮痛の期待は中脳のドーパミン神経細胞の興奮と相まって脳内オピオイド活性を促進させる
    • 認知行動療法の実践は慢性痛者の背中外側前頭前野の活性化を起こし、痛みの緩和を促進させることがわかっている
    • 認知行動療法の背景には、痛みの緩和を他者に依存せず自己管理することで背中外側前頭前野の活性化を促し、それにより鎮痛を引き起こす手続き、そして思考の柔軟化に関与する腹外側前頭前野の活性化を促すことで鎮痛を促進する手続きが含まれている
    • 背・腹外側前頭前野(DLPFC,VLPFC)の活性化は、痛みを緩和させる下行性疼痛抑制を機能させることから、逆に言えば、それら領域が機能不全に陥り、このシステムがうまく働かないことが慢性痛の脳内メカニズムの特徴といえる
    • 社会的排斥を強く感じるものは背外側前頭前野の働きが低下していることも示唆されており、社会的サポートの有無が身体的にも心理的にも慢性痛に関与していることがわかっている
  • 内側前頭前野と背中外側前頭前野は互いに抑制的。一方が過活動になると他方の働きが低下する
  • 慢性痛の認知的・イメージ的側面から捉える
    • 痛みが長びくと環肢の不使用がおこり、それにより、脳内の身体知覚にかかわる領域(たとえば一次運動野や一次体性感覚野)が縮小化することがわかっている
    • Moseley 慢性腰痛患者 患部の2点識別距離が延長。患部の描写ができない。身体イメージの欠損
    • Bailey 神経障害性疼痛患者 主観的に自分の身体を大きく錯覚していることを明らかにし、大きく感じているものほど痛みが強いことを明らかにした
    • 身体イメージの変容程度と主観的疼痛強度ならびに2点識別距離は互いに関係し合う
    • 膝OA術後 術後3ヶ月で依然痛みを訴えるもの 負の情動要因である痛みに対して固執感を持っているのに加えて、自己身体の認知能力が低下しているneglect-like syndromeを有していることが明らかになった
    • 神経障害性の慢性痛 体性感覚や視覚といった異なる情報を統合する領域として知られる頭頂葉の活動の減弱化も確認されている
    • ロディニアの出現と頭頂葉の機能不全の間に相関
    • いずれにしても脳の体部位再現の縮小化には、罹患期間、不動、そして不動による体性感覚入力が減少することが影響している
    • 不動期間が長びくことで皮質機能不全を引き起こすことが明確になっている
    • 一方で、異なる感覚情報に食い違い(sensory discrepancy)が起きると被験者によって異なるしびれや重さの知覚の変容など、さまざまな不快感を示す異常知覚が出現する
    • 自分自身が目的とする運動感覚のイメージと実際起こった感覚フィードバックの間の食い違いによっても、異常知覚が出現してしまう。このような背景から、慢性痛者では、知覚ー運動ループの破たんが起きていることが示唆されている
    • このような背景から、近年では、視覚と体性感覚を統合させる課題として触覚識別課題、ミラーセラピー、仮想現実システム(VR:vertual reality system)をもちいたリハビリテーションが開発されている。