がん終末期における心身医学的関わりの限界 難渋した慢性疼痛症例を

蓮尾英明、松田能宣、松岡弘道、福永幹彦 がん終末期における心身医学的関わりの限界 難渋した慢性疼痛症例を通じて 日本心療内科学会誌 2014;18:97-103

  • 入院時より、「ヒトは歩けなくなったら終わりだ」など、自律存在としてとしての実存的苦痛も表出していた。そこで、予期不安や受動的行動によって痛みが増悪する悪循環の病態仮設を説明した。その上で、”予期不安の軽減には、症状を回避せずに自ら対処することで乗り越える能動的な関わりが必要であるが、今はその余裕がなければ治療を進めずになにもしないほうがいい”といった治療的ダブルバインド(患者が陥っているダブルバインドな状況を解くために、あえて別のダブルバインドを提示するといった治療手段を用いる技法)を導入して、医療者主導の関わりを控えた。マッサージなどの関わりを控える方針は、一部の緩和ケアスタッフには受けれ難かったが、同様に病態仮説を説明することで理解が得られた。これを契機に、患者は能動的な関わりが増えていき、痛みの訴えは見られなくなった。
  • にがり虫(怒り)と筋緊張、筋緊張と痛みといった心身相関
  • がん性疼痛の原因は複合的であることが多く、原疾患に伴うもの、治療的処置の影響、精神症状が身体化したものなどがある
  • がん性疼痛は精神的苦痛と関連していることが多く、心理社会的背景が複雑に絡んだ慢性疼痛が混在していることもある
  • 緩和ケア領域において、がん性疼痛による2次的な筋緊張や長期臥床から発症するMPS(筋筋膜性疼痛症候群)に遭遇する機会は多い
  • 医療者への高い依存性、適切なコーピング能力の低下、陰性感情の同定伝達が未熟なことによる家族や医療者とのコミュニケーション不適応