細井昌子 慢性疼痛患者によくみられる訴えのNBMとEBM 心身医 2015;55(1):26-33

  • 本稿では、診療でよく耳にするフレーズが現代医学のどのようなevidenceと関連していると考えられるか解説した
  • 「こんなに痛いのはどこかに痛みの原因があるはずです」
    • 外側脊髄視床路 (強さ、場所) 内側脊髄視床路 (不快感)
    • これらの痛覚伝導路と不快情動系との密接なつながりに関するエビデンスを鑑みると、「医学的検査をしても異常はありません」と医師が告げても、不快情動系が発動している患者の脳の状態では、安心感が得られず、機能的異常に伴う痛み体験について、「体のどこかが痛いにちがいない」という大脳皮質で生じた認知が持続することになると考えられる
    • このような患者の訴えが変容するためには、検査結果の解釈という知性化が作用しない大脳の構造があることを理解し、心身医学者と接し安心することで痛みの不快感が軽減することを自ら体験することが重要であると考えられる
    • 対処法としては、知・情・意をまとめて言及されることが多い脳機能のうち、痛みについては不快情動(情)に対してその不安で困惑している状態を受け止め、その後に客観的情報(知)をわかりやすく説明し、腰痛であれば適切な日常生活上の工夫や運動療法に対する意思・意欲(意)を支えるアプローチを、「情→知→意の順へのアプローチ」の心身医学のアートとして行うと臨床的に有用である
    • 不快情動への対応を行わずに、医師が硬い表情で知的に客観的な医学情報を伝える診療では、ドクターショッピングが持続することになる
  • 「痛みのために、何もできない。この痛みさえなければすべてうまくいくのに」
    • 痛みの破局
    • 「何か恐ろしいことが起こりそうです」
    • 破局化の下概念の拡大視
    • 扁桃体の活動を前頭前野からの抑制系回路で制御できていない状態
  • 「わかってもらえない」
    • なにをわかってほしいのか聞いてみても、その具体的な内容を患者自身が表現できないことも多い
    • 失感情症
    • 「わかっているけど言いたくない」という、気持ちのレベルである次元と、自身の本音を無意識下に閉じ込めている抑圧の次元とがある
    • 自身の感情に気づけない人においては、痛みの不快情動成分が増大している可能性がある
    • 診療現場で聞かれるこの「わかってもらえない」というnarrativeを頼りに、失感情症傾向について質問して、「その事態であなたはどのように感じましたか?」という質問を行い、不快情動などを自然に表現できるかどうかを観察していく
  • 「この痛みは私に対する罰なんです」
    • 罪悪感を覚えている時に活性化する脳の部位として、島皮質が知られており、その島皮質は前述したように痛みの深い情動成分を構成している
    • 身体的な機能的な痛みでも罪悪感を覚えている状態のときには痛みに不快感が増大するメカニズムがあると考えると、痛みを罰と考える思考対処が痛みの破局化を強める解析結果と一致することになる
    • したがって、痛みに体験に罪悪感を伴っている場合には、罪悪感を覚えるに至った患者の生き方におけるnarrativeを傾聴し、罪悪感を覚える必要がないことを治療的対話で語り合うことは治療促進的に作用する
  • 「じっとしていると落ち着かないんです」
    • 安静時脳活動 default mode network
    • 精神医学的には、意図的な活動を「意識」の活動であるとすると、安静時の何もしていない時の活動は「無意識」の活動であると考えることもできる
    • 過去の虐待に伴うトラウマ体験が抑圧された状態にある症例では、この「無意識」に関与する活動が活発になり、不快情動になって「落ち着かない」状態になっていると考えられる
  • 慢性痛患者のnarrativeにみるプロトタイプ
    • 女丈夫症候群
    • 主人在宅ストレス症候群
    • 主人在宅ナイト化症候群
    • 昭和燃え尽き症候群