座談会 変貌する痛み治療

岩田誠、小川節郎、菊地臣一 座談会 変貌する痛み治療 Practice of Pain Management 2014;5(4):209-219

  • それまでは整形外科も痛みへの関心は低く、あえて厳しく言うと、痛みをもつ患者さんではなく画像を治療していたところがあったことは否めません
  • 患者さんに痛みがあるという事実を受け入れることからスタートすることが大前提です
  • 以前は、画像上問題がみつからず、器質的原因が見つからない場合、心因性に原因を求める傾向がありましたが、この言葉もつかうべきではないと私は考えていて、機能性腰痛または非器質的腰痛という言葉を使うように呼びかけています。心因性腰痛といわれた患者さんは、自分は精神病なのかと混乱、困惑します。
  • 科学の進歩とともに、痛みの裏にある悲しみや苦悩がいつの間にか忘れられてしまった
  • 神経や伝達物質で語り尽くせるならば、痛みは神経ブロックでおさまるはずですし、薬剤で治るはずですが、モルヒネをつかっても、アミノトリプチンを使っても、どうしても治らない痛みがあります。やはり慢性疼痛には情動が深く関係しています。
  • アルツハイマー認知症では扁桃体がやられます。このため、ある程度進行すると痛みを訴えなくなってしまう。
  • 患者さんに2つのタイプがあることに気付かされました。ひとつは治ったことに感謝してくださる患者さんで、つらい症状がすっかりなくなって、こんなに歩けますと喜んでくださる方たち。もうひとつは残った症状に意識がフォーカスしてしまう患者さんたちです。
  • 原因不明の術後痛に苦しむ患者さんに接するうちに、われわれのメスだけで解決できる範囲は限られていて、麻酔科や神経内科、精神科などあらゆる診療科の先生方の協力が必要だと考えるようになりました。
  • 最新のEBMでは、患者さんと担当医の信頼関係が強いほど患者さんの満足度や治療成績もよくなることが示されています。信頼関係を築くためには、患者さんの話を聞く技術の鍛錬もこれからは必要になるでしょう
  • 受け止める側のドクターが潰れてしまうことがあります。
  • これまの議論にあるように、情動に関する部分にはどんな薬もきかないのかもしれません。
  • 私も痛みに安静をすすめることには昔から大反対でした。安静にしてじっとしていると、自分の身体を観察するようになってしまい、かえって痛みが増幅されてしまいます。たとえば、誰かが来てお話をしているときには痛みを忘れます。じっと痛みに耐えてベッドで寝ているというのは最悪です
  • Lancetで医療の治療手技で安静が治療に有効に働くのは、心筋梗塞や脳外科の手術を含めて何一つないといっていました。
  • 岩田先生がおっしゃったように、情動は情動として治療する側が一度受け止めないといけないのですね。ドーパミンやアドレナリンに分解することだけに目を奪われると、見落とすものが多くなりすぎるのかもしれません
  • 昔から言われているように、全体を見失わないようにする、痛みをもつ患者さんの立場に戻って考えることを忘れてはいけないということでしょう
  • 「患者の痛みを診るのではなく、痛みをもっている患者を診ろ」
  • 私は共感という言葉をよく使います。痛みを訴える患者さんに、単に同情するだけでは「sympathy」です。その人の身になって感じ取る「empathy」をもって患者さんに向き合う、これはすべての医師に求められることだと思っています。