慢性疼痛を持つ患者に対する認知行動アプローチ

柴田舞欧、安野広三、細井昌子 慢性疼痛を持つ患者に対する認知行動アプローチ Anet 2014;18(1):23-27

  • 認知行動療法を行うための土台作り;信頼関係の形成と慢性疼痛の心理教育
  • 信頼関係形成の4つのコツ
    • 傾聴、共感、認証
      • 傾聴はうなずきながら、患者のいう言葉をそのまま、「〇〇と思ったんですね」とオウム返しし、自然な会話を促す。
      • 患者は自分がどうすべきか分かっていることもあるが、思考や感情が邪魔して行えない(わかっちゃいるけどやめられない)ことが多いので、簡単に「こうしたらいい」「こうすべきだ」と言うのは無意味であり、患者にプレッシャーを与えることになる場合が多いので注意したい
      • 言葉を返す時に注意すべき点は、なるべく良い悪いなどの価値判断をせず、感情表現によりフォーカスを当て、「そんな場合はそのように感じますよね」と認証する
    • 痛みの苦悩はケアの対象である。ここに至るまでの患者および家族の苦労をねぎらう
      • 痛みの苦悩が治療対象であるということを認めることは、患者にとって安心材料となり、信頼関係を築きやすい
      • また心理社会背景を聴いた上で生活や人生の困難や苦悩に共感し、患者の苦悩を支えられない環境の厳しさを理解する
      • その状況下で患者が頑張ってきたことを認めることも信頼関係の形成に重要なポイントである
    • 心身相関、痛みのメカニズムについての説明と診断
      • ゲートコントロールセオリー、HPA axis
      • 腰や背中が痛い人には、「背負っているものが重いんじゃないですか?」、肩が痛い人には、「肩の荷が重いんですね」、頭痛の人には「頭痛の種がありますね」などと体の慣用句を使って苦悩を認証し、「(そんな環境では)痛くもなりますよね」と共感するだけでも納得される場合が多い
    • 治癒した患者の話・治り方・今後のビジョンを伝える
      • 当科では痛みそのものよりも、痛みに関連する苦悩を治療対象としているため、痛みが多少あってもセルフコントロールでき、QOLが改善するという治癒の仕方に遭遇することもある
  • 治療の主体は患者自身
  • 安定した信頼関係の維持のために
    • 関係が安定してきても些細な(と治療者には思える)ことで理不尽な程の患者の怒りに遭遇することがある。それは、患者が無意識に過去の人間関係と今の医師・患者関係を重ねて否定的感情を上乗せしている「転移感情」(精神分析的概念)の可能性がある。もとは父子あるいは母子関係の場合が多い(医師に父母や兄姉の影をみて、余計に怒っている)。