大人の”困った痛み”の心理学的検討

金外淑、松野俊夫、村上正人 大人の”困った痛み”の心理学的検討 心身医 2014;54:407-413

  • 痛みに対する感覚の違いを身近な人と共有できない場合などでは、激しい怒りを自分や家族・周囲にぶつけることで、結果的に周囲から適切なサポートが受けられなくなることもあり、二次的な感情に対する心身医学的な対応が必要な状況を多く経験する
  • 原因がはっきりしない痛みの多くは、患者にしか感じられない主観的な体験であり、さまざまな心理社会的ストレスや治療環境などによる心的不安定状態が身体の痛みという賞状として表現されていると考えられる
  • 痛みに対する治療過程の中でも患者がさまざまな心理的症状を”痛み”として訴える場合、痛み治療の現場における治療者・患者関係の混乱を惹起することもよく経験する。
  • 痛みの治療には早期の段階から痛みの物理的軽減とともに心理的な治療環境作りも心がける必要があると思われる
  • 患者が訴える痛みや痛みが起こっている背景は何か、痛みのために避けていることは何か、痛みに伴う望ましくない行動は何かなど多面的に観察しながら、具体的な治療方針を患者に提案する必要がある
  • 線維筋痛症患者の痛み行動を注意深く観察すると、誰にも今の痛みを理解してもらえないという悔しさや諦めが慢性的に我慢してしまう行動(以下:我慢行動)に加わると、より問題行動が起こりやすくなる
  • 患者が訴える痛みに周囲や家族が慣れてしまうと、痛みのつらさを訴えても周囲は無関心・無反応になりやすく、患者自身も周囲への諦めの思い込みから、苦しみを周囲と共有できずに抱え込み、我慢行動が生じる。その結果、痛みの苦悩や感情を周囲に適切に伝えられず、さらに家族や周囲の言動に対してその場で怒りの感情をみせない(あるいは、みせたくない)という我慢行動がさらに怒りの感情を刺激し、「痛みが痛みを引き起こす」身体の痛みとして現れることが観察された
  • 治療の早期から、痛みの経過観察をしながら、痛みの軽減とともに、日常の生活や痛み行動を伴う回避行動や我慢行動にも注意を払い、生活の質の向上に務める必要がある
  • FMの痛みに対する支援を考える際に重要なことは、痛みの表出自体に目を向けると同時に、強いストレスなどの心理的要因による痛みの起こり方・痛みを訴える方向にも注意を向ける必要があることである
  • 第一段階 自らの痛みの状況を知り、痛みによる不安な気持ちを周囲に適切に伝えられるうようになることが治療目標
  • 第二段階 痛みは自分が管理するという意識を高めること
  • 痛みのセルフ評価段階で、相手に痛みを上手に伝えるスキルを学ぶことで、患者自ら自分の痛みの状態を理解するようになり、さらに痛みの自己管理段階では、痛みがます要因をはあくすることによって治療目標をり明確化することができ、痛みに伴う問題行動や偏った考え方の改善につながった