忘れ得ぬCRPS症例との出会い

山田信一 忘れ得ぬCRPS症例との出会い ペインクリニック 2013;34(8):1141-1146

  • 九州大学心療内科で研修した際も、今でも一番大切にしていることは”気づき”である。この気付きを得られるかどうかで、その後の展開が大きく異なるのである
  • 診察の際には「よく患者の話を聞いて。。。」と言われる。患者の話を漠然的に聞いていても、いつまでたっても話が終わらず、愚痴が多くて、結局何が言いたいのかさえわからず、時間のみが過ぎてしまい打ち切ってしまう。一時間以上話を聞いたのに、患者は話し切れずに満足感がなく、治療者も話を聞いただけで疲れてしまう。日常、そんな慢性痛患者を多く受け持っていないだろうか?ナラティブがナラティブだけであっては、そこから先の展開がないと私は思っている。つまりはナラティブであったとしても、治療者が必要な情報を考え、患者の苦しさを理解し、引き出させるような語りかけが必要となってくる。ナラティブであるが、患者の気付きまでの誘導が必要である。あなたのストレスはこれですよ、これがストレスじゃないですか?そんなことをしていたらストレスでしょう?こうストレートに話を切り出しても、患者がそう思っていなければけっして話に耳を傾けてはくれない。患者に話をさせながら、自分自身で、”あっ、もしかして私はこれがストレスなのでは?”と気づかせるような引き出し方が重要である。治療者が気づいた事象を患者にいかに話をさせ、それがどれほど重要なことであるかを気づかせることで、患者自身が話をしならが考えていくのである。話しの途中で、それに気づいたと感じたのであれば、あとの治療もスムースになっていくのが十分に感じられる。それを繰り返しておくことで、そのうち患者と話をしながら、”また同じことをしてしまったな”と自分で気づいていくのである
  • コメント 細井昌子
  • 山田先生が苦労されたNarrativeを基にした傾聴のなかで、ポイントを絞って傾聴をすると効果的になる観点は、過去の生活環境のなかで、目の前の患者さんと呼ばれている一人の人間が、「何を苦として生きてきて、何を悦びとして生きてきたか」を知ることにあるということもできるでしょう
  • 最近の私自身の治療の観点は、慢性痛の治療は、まず目前の患者さんに過去の体験ですでに形成されている報酬系を活性化し(「こんな耐え難いご苦労があったなか、どんな本人の工夫でここまで頑張ってくることができたんでしょうか?」という対処法(coping)に関する治療的問いかけは有用です)、その流れを作った上で、鎮痛を図る多面的な治療プログラムを載せていくということです。報酬系を活性化した脳はドパミン系やオピオイド系が刺激されているため、ある程度の苦痛は耐えられやすくなります。不動が持続増悪因子であるCRPSの治療にいかに初期の運動療法に伴う多大な苦痛を緩和し運動療法の動機づけを形成するかを考える時に、個々の具体的体験から形成されてきた既存の報酬系脳回路をどのように活性化できるか(悦びがあると苦痛も我慢できるメカニズム)が重要な観点となります。