原因がよくわからない慢性の痛みには、どう対処すればよいですか

釋文雄 原因がよくわからない慢性の痛みには、どう対処すればよいですか レジデントノート 2012;14(13):2490-2495

  • 疼痛を持続させる「痛みへのとらわれ」
    • 痛みが生じると痛みの「症状へのとらわれ」と「原因へのとらわれ」ができる
  • 患者の原因へのとらわれへのアプローチ
    • 完全には否定しない
      • 否定は医師患者関係を悪くする、”絶対”とは誰にも言えない
    • 身体保証を行い、医療の限界を説明
      • 身体疾患について一度はきちんと評価する、すくなくとも重篤なものではないことを説明、必要以上に検査をして原因を追いかけない
  • 痛みがありながらもそれを説明するだけの異常が認められない場合、また認められても現在の痛みを生じさせるとは考えにくい場合、まずは対症的な薬物療法を行うことが多いが、それでも改善しない場合は次にどのような対応を行うか悩んでしまうことも多いだろう。このようなとき心身医学的な観点から疼痛、そして疼痛で悩む患者全体を見ていく必要がある
  • bio-psycho-social medical modelのエッセンス
    • 多因子が関与する病態では、個々の因子への分解が不可能で意味を持たない
    • 全体としてのシステムや各因子間の相互作用、関係性が重要である
    • 心身は不分離であり、多因子的な考察法が必要である
    • 心身医学は、医学の内部における一つの専門分野というより、疾患の多様性を考慮に入れるアプローチである
    • 従来の診療科と診る疾患が異なるのではなく、同じ疾患を診るにしてもその方法が違う
  • 心身医学療法の実際
    • 患者自らのもつ心の状態に気づき、心が引き起こしている症状に関して理解することが目標になる
    • 実際の臨床場面に目を向けると、疼痛患者は痛みがひどくなると攻撃性も強くなり、攻撃の対象が時に主治医となり、その場合には主治医として患者に陰性感情を生じることが往々にしてある
    • 主治医が攻撃の対象となってしまうと、主治医としても毎回の診察がつらいものとなるが、疼痛患者の背景を念頭に入れつつ診察を行うと、つらさの軽減を図ることができ、共感も得やすくなる。
    • ではその背景であるが、疼痛患者の攻撃性をみてもわかるように、疼痛は患者の怒りの表現であると考えられる。そして怒りの本来の対象は患者自身に対してである。慢性疼痛の患者でそれに気づいていることは稀であり、自らへの怒りであることに気付きたくないという感情が自然と働き、まずは他者へ矛先が向けられる
    • では、どのよなタイミングで伝えることが有効か。まずはもっている怒りを他者(主治医など)に向けて吐き出させ、感情的にも落ち着いた段階で自ら気づけるようにサポートすることが重要である。そして、気づいた後、信頼関係を保ち患者を支えていく心構えも必要となる。患者自らが今まで触れないでいたことに関して見つめていく作業を行う場合、一時的に症状の増悪がみられ、思わぬ症状が一時的に生じることも前もって話しておきたい。これをしておかないと、初期の段階で信頼関係が崩れ、せっかく治療のスタート台にたっても中断せざろう得なくなる。この作業はときに数ヶ月かかることもあり、主治医としても根気が必要である。患者がみずから気付けるためには、どのようなときに怒りの感情が出やすいか、その状況を詳しく振り返ってもらい、自己に対して否定的に思う場面との相関を見つけ出す。この作業を繰り返して行うことにより、自ら気づき、分析的に考えられるようになり、それに伴い、疼痛の軽減が図られる。この作業がうまくいくと、再発も抑制できる