慢性腰痛に対する認知行動療法

境洋二郎、小山徹平、丹羽真一 慢性腰痛に対する認知行動療法 痛みと臨床 2007;7(2):155-164

  • 疼痛閾値には個人差があり、障害の程度と痛みの強さが相関しないこともあり、痛みが心理社会的因子と関連していても心身相関に気付かない、またはそれを認めない患者も多く、治療者が患者に対し院生感情を持つこともある
  • 心身相関を正しく把握する為の具体的目安
    • ライフイベントや日常生活におけるストレスの存在
    • 抑うつや不安状態といった情動上の変化の存在
    • 性格傾向や行動上の問題(ストレスの認知とコーピングスタイル、生活習慣を含む)の存在
    • 生育暦上の人間関係の問題(親子関係など)の存在
    • 疾患自身の心理、行動面への影響の存在
  • 認知行動療法の定義
    • 個人の行動と認知の問題に焦点をあて、そこに含まれる行動上の問題、認知の問題、感情や情緒の問題を合理的に解決する為に計画された構造化された治療法
  • 認知行動療法の治療方法は単一な技法を用いるのではなく、患者の抱える問題や症状に加え、先行条件、反応、結果の三者の関連性を明らかにする機能分析をおこない、介入戦略を立て、用いる治療技法を決定し実行する
  • 症例
  • 病状に対して質問を繰り返し、ちっとした症状にこだわる傾向があり、不眠を訴えることもあり
  • 病歴聴取の最中に話に夢中になると、痛みの素振りがないように時折みえた
  • 職場では中心的働き、せっかちで落ち着かない性格であったが、職場ではこまかいところまで配慮し、仕事を丁寧にきちんとこなすひとと評価されていた。なんでも自分でおこなわないと気がすまず、他人に頼るのが苦手であった
  • 本来の細かい気にかける性格もあり、腰痛の症状について過度に注意を払い、軽い違和感がおこるか、起こりそうなときであっても、腰痛の大変な症状が起きたととらえていた。
  • (介入後)腰痛は減ったものの軽い痛みは残存し、以前と同様にすべての仕事を自分でこなすことはできなくなったが、そのために周りの同僚に仕事を振り分け頼めるようになり、協力しながら仕事に取り組めるようになった。その結果、人に依頼することが全部自分でこなるより楽であることに気づけ、職場のグループ全体での仕事の成果も以前よりあがる結果となった
  • 本症例の腰痛にたいする認知の特徴
    • 「痛みのために生活が制限され、仕事もできなくなった」という生活への影響性
    • 「腰痛は自分ではどうにもならない」という痛みに対する無力感
  • 心身症患者はその身体症状による苦痛が極端に強くならない限り、日常行動に常識を超えるような異常は認めないことが多く、むしろ過剰な適応努力を払っていることが多い。そのため、一見すると心理社会的問題、精神症状を認めず、心理社会的因子と関連した心身症と関連した心身症を見落とされることも多い。自分の感情がどのようであるか気付かず、またそれを言語表現することができにくい状態をアレキシサイミア(失感情症)といい、心身症患者には概して多いと考えられている