運動器慢性疼痛における集学的アプローチ

Round tabel discussion 運動器慢性疼痛における集学的アプローチ Locomotive pain frontier 2012;1(2):57-64

  • 松原 痛みセンターのリハビリ受診患者 注射してほしい、手術してほしい、リハビリしてほしいなど自発性の低い受け身の特性があります。また、痛みさえ取れたら仕事も家事もなんでもできるというように問題は痛みだという点に執着していることが治療長期化している患者特性です。
  • 笠原 「青い鳥」探しには、完全主義的な性向が反映されているように思います。私の施設に紹介されてくる患者の特性としては、幼少期に親から叱責されたり過度に厳しく養育されたりするなど自覚的に虐待経験をもっている人が多いことです。完全主義的性向というのは幼少期の親との関係で形成されることが多く、親の望みに適った行動した時にほめることを重ねると、もっとほめられたいと願って自分の未熟な所やダメな所にばかり着目して認められようとするのです。
  • 牛田 様々な患者特性がありますが、ポイントは痛みが完全に取れればなんでもできるという患者の考え方から、痛みがあってもさまざまなことができるんだという考え方および行動を実践させることで、結果として痛みによる障害(痛み行動)を改善させていく必要があるようですね
  • 松原 ソーシャルに関して 恨みと納得 当該患者に理解度に問題や学習障害的なものがある場合は非常に難治化しやすいことから、単にソーシャルと一言で済ませてしまうのは非常に危険であり、そういう意味では集学的アプローチはますます大切ではないかと思います
  • 牛田 (集学的アプローチで)精神科診療に馴染むケースもあり、このパターンを分析するとやはりうつ病あるいは完全な発達障害の傾向が疑われます
  • 笠原 精神科があまり協力的でない原因として、慢性疼痛の症状を治療することは非常に難しいということがあげられます。疼痛患者は周囲からの愛情を得るために、怒りの感情を適切に表現することが苦手です。にもかかわらず、「自分は精神的には正常者である」と自己認識していることが多く、悩みの原因となっている心因について隠してしまう傾向があります。それは欲や情などの”人間臭さ”を含んでおり、話をひと通り聞いてわかるようなものは、たいてい病気の心因ではないと考えたほうがよいとも言われます。なので、精神科医として最初に診察した時に、この患者がいったい何の問題で身体化しているのかがすぐには判らない場合が多いです。一方、通常精神科を受診する患者というのは、自分で精神的な問題を相談しにくることが多いので、問題点はようにに推測できます。そのため、通常の精神科受診患者よりも病態評価の難易度が一段高く、まずは当該患者の謎、その患者が隠しているものは何なのかを徐々に明らかにしていかなくてはなりません。
  • 牛田 重視すべきは診察室や病棟などでみる患者の様子だけでなく、たとえばそこではみられない患者の様子をみている受付の人などが看護師と連絡を取り合うことも非常に有意義であり、患者を長期的に評価・分析する上で、さまざまな職種を含めたカンファレンスあるいはリエゾンが非常に大事ではないかと思います。