固有知覚と身体イメージ

内藤栄一 固有知覚と身体イメージ clinical neuroscience 29(8);905-908;2011

  • 筋肉や関節に由来する感覚は固有受容感覚(proprioception)と呼ばれ、触覚などに代表される皮膚感覚とは質的に分けて考えられている
  • 筋肉の中でも錘内筋に存在する筋紡錘という受容器は、四肢の動き(方向と速度)の知覚に大きく貢献する。この受容器は、通常、四肢の動きに関連して、これらの筋肉が伸ばされた場合、その速度に依存して神経活動を増加させる。面白いことに、この受容器は適切な周波数(80Hz付近)の振動刺激に対しても、同様に神経活動を増加させる特徴がある。この特徴を利用すると、自ら運動せずともあたかも手足が動いているような運動感覚(錯覚)を惹起できる
  • 筋由来の感覚情報は自己の身体図式形成にとって本質的であるだけでなく、運動制御にも大きな影響を与えるのである
  • 自己の四肢の動きの知覚は身体図式の運動性知覚と言い換えることもでき、これには運動領野活動が関与した。
  • 四肢の動き知覚において筋紡錘がはたす役割は大変大きいが、実際に動いている四肢の動きを知覚する場面では、その動きに伴う皮膚伸縮や関節への圧変化を検知する皮膚受容器や関節受容器などからの情報も、複合的に統合されている
  • 身体部位からの体性感覚情報の統合が、複数の身体部位を包括する身体図式の形成に関与することを示す最も有名は身体錯覚に、ピノッキオ錯覚がある。閉眼被験者が手で自分の鼻に触れる。この時、腕の二頭筋に振動刺激を与え、腕が伸展する方向へ運動錯覚を惹起すると、この錯覚に伴って自分の鼻が伸びていくような体験ができる。これを応用して、両手を体側につけて、両手首の伸展筋を振動刺激すると、手首の屈曲錯覚にともなって手が接触している胴体が縮小するような錯覚を惹起できる。この胴体縮小錯覚には頭頂感覚連合野(2野、5野)の活動が関与する。両手が胴体と接触することにより胴体の幅を知りうるわけであるが、接触を通して知り得たこの情報と両手の動きの情報が、身体部位の枠を超えて頭頂感覚連合野で統合された結果、この身体図式変化が知覚されるものと推定できる
  • ヒト身体図式形成においてもうひとつ重要な脳部位は、右大脳半球の前野(44野、腹側運動前野)ー頭頂(下頭頂葉、頭頂間溝)領域である。
  • 右半球大脳基底核を含めてこれらのネットワークの損傷は、自己イメージの歪を生じることが臨床的によく知られている
  • 右半球ネットワークが損傷されると、その身体図式更新機能が正常に遂行できなくなり、結果として連続的で一貫した自己身体知覚に障害を来たし、正しく更新できなかった過去の身体イメージが幻覚としてそのまま意識に残っている状態と推定することも可能だろう