西原真理 心理的背景 整形外科 2012;63(8):731-735

  • 疼痛性障害とは、「痛みが強く、それがさまざまな機能障害を起こしており、心理学的背景が症状に影響していると思われるもの」ということになる
  • 運動器慢性疼痛を考える場合に、変形性膝関節症、椎間板ヘルニアなどの治療を行うと同時に、痛みを増強する心理的因子について検討するシステムづくりが必要ということである
  • 痛みの心理学的意味についてはEngelがレビューしているが、その中で痛みと心理学的発達、痛みと罰との結びつき、攻撃性とそのコントロールとしての痛みなどについて強調している。特に怒りの感情が現実にその怒りを感じている対象には向かわずに、自らの身体にむかって表出されているという考え方は、臨床上でも重要であると思われる。
  • 実際によく見られる2つのパターン
    • 痛みが家族内や社会環境において意味を持ってしまう場合
      • 痛みが相手を動かすコミュニケーションツールとして機能するようになる
    • 痛みをとる、和らげるための行動が、大げさにいうと生きることへの意味に摩り替わってしまうような場合
      • 痛みが自らの人生の意味合いにとってかわっていくようにみえる
      • 「みたくないものをみないようにする」ための機能をはたしてしまっていることに起因しているという場合もすくなくない
  • 重要なことはこれらの心理学的な意味が、患者にとってまったく意識できないというところにある。つまり治療的には、これらの要因についてストレートに伝えた場合、もし事実であったとしても(逆に事実であればあるほど)、患者本人にとっては容易には受け入れられないのである。臨床的には、治療関係の成熟をまって忍耐が求められる
  • さらに痛みを引き剥がすことへの危険性もある
  • 痛みに対する感じ方としての破局
    • PCS 反芻、無力感、拡大視
    • 治療者が受ける治療の難しさと相関があったのは破局化思考スケール
    • 治療者が感じる困難性が、ある側面において破局化という痛みに対する感じ方への偏り影響される可能性を示唆
    • 治療によってスケールが変化しない症例こそが痛みへの認知の硬さを示しており、診療的には問題なのかもしれない
  • 人格特性としての失感情症 アレキシサイミア
    • 「何か情感に乏しく、気持ちが伝わってこない」「客観的には大きなストレスがかかっていると思われるのに、それを自覚できていない」
    • 失感情症の傾向は負の情動抑制をすることで身体感覚の情報を混乱させ、それが持続することで痛みに対する身体化症状の原因になっているという仮説を考えることができよう
  • 現実的に業務に追われる日常診療の中では、痛みが慢性化する患者にじっくり時間をかけて診療する余裕はないと感じられる方も多いのではないであろうか。しかし、特に治療に行き詰まった場合、患者におこっている心理的な現象について想像力を駆使しながら治療をすすめることには大きな意味があると思われる。全体としては、身体的なアプローチと心理的な問題をみる。この両方のバランス感覚が治療を成功に導くもっとも重要な因子であろう。