丸田俊彦 「痛み」の心理的側面 ー特にpain behaviorについて 精神医学 1976;18(10):1059-1064

  • 痛みとは何か
    • 第一に「痛いという知覚」
      • 知覚としての痛みは、完全に、永久に個人的な体験であって、他人の痛みを推測することはできても、感じることはできない。患者の訴え、そして一挙一動から、臨床の診断を下すことは多々あり、あたかも患者の訴える痛みの量を知り得たかのよな錯覚をおこすことはあるが、患者の主観的知覚としての痛みの量は、測定することはできない
    • 第二は警告刺激としての痛み
      • 頻脈、縮瞳、発汗といった生理的反応に始まる生体の防御反応は、臓器、組織の損傷を最小限にしようとする、警告信号への呼応である
    • 第三は疼痛知覚に対する反応
      • 「どこがどのように痛い」という訴えや、唸り声(verbal pain behavior)から、顔付き、目付き、そして動作の一つ一つの詳細に至るまで(non-verbal pain behavior)、すべてが疼痛知覚への反応である。そして、これらの客観的に観察し得る反応が、他人の痛みを推定するときの素材となる。われわれはこれを総称して、疼痛顕示行為(pain behavior)と読んでいる
  • 痛みの心理的側面
    • 幼児期体験
      • 「親の怒りー体罰ー痛みー恐怖」あるいは、「怪我ー痛みー看護ー安心」といった、乳幼児期に始まる体験の繰り返しは、各人各様の「痛みの記憶」を形成する
    • 人間関係
    • 状況の保つ意味
    • 注意集中
    • 被暗示性
  • 脳外科医Cobbが雄弁に語っているように、疼痛患者における基本問題は、「痛みがほんものなのか、あるいは気の病なのか、ということではなく、どの位の疼痛知覚に、どの程度の疼痛顕示行為を示しているかであって、患者にとって、すべての痛みは正に痛いのである」
  • 要約して言うなら
    • 痛みの精神的側面は、痛みと共存する症状として語られるべきである
    • 痛みの原因として精神科的疾患を論じる時には、治療が不成功に終わる例が多い