「はい、でも」ゲームに対し鍼灸治療の心理療法的側面を利用して治療

近藤哲哉 「はい、でも」ゲームに対し鍼灸治療の心理療法的側面を利用して治療をおこなった線維筋痛症の症例 心身医 2012;52:351-321

  • 10年以上線維筋痛症とその周辺症状に改善のみられなかった患者の鍼治療において、著明な疼痛顕示行動が治療の妨げになっている症例を経験した。患者と治療者の間に、交流分析で言うところの、「ゲーム」(気づかずに繰り返し行なってしまい、後味の悪さが残る人間関係のパターン)が観察されたが、鍼治療の直接的な効果というよりは鍼治療の治療構造そのものがこのゲームからの脱却に有効であったと考えられた。
  • 治療経過
    • 患者の全身には著明な痛覚過敏があり、治療者が軽く触診しただけで疼痛を訴え回避反応を示した。鍼灸師は患者の顔を見ながら恐る恐る治療を行わざろうえなかった
    • 治療効果を聞くと、ことごとく否定。
    • 患者と治療者は交流分析で言うところの、「はい、でも」ゲームに陥っているとおもわれた。
    • これは仕掛け人が問題提起をし、相手が提示する解決法を、仕掛け人がことごとく理由をつけて否定する
    • 触診中の患者の疼痛顕示行動に対しては、治療者が動じず、治療する場所(過敏点)がみつかったという前向きに捉えて治療を継続するようにした。また、経穴の刺激中の疼痛顕示行動については、強い得気を得られていると前向きにとらえてもらうようにした
    • ある鍼をさすと、Aの部位に疼痛がひろがっていると患者が訴え、鍼を外すように要求されたが、この部位の鍼ではAの部位ではなくBの部位に疼痛がおこるはずだと、冷静に発言し、治療を継続した
  • 47カ月めで、2倍の時間勤務が可能となり、国内旅行へいけるようになる
  • 考察
  • 「はい、でも」ゲーム
      • 一見救済を求めているようにみえる仕掛け人に対し相手が提示する提案を、仕掛け人がことごとく否定し、最終的には相手が万策つき敗北宣言するという、仕掛け人が仕掛ける人間関係のパターン
    • ゲームを演じる仕掛け人のメリット
      • 1 相手任せにすることにより、能動的に意思決定することからのがれることができる。同時に相手を全面的に死んらして任せるとういことも避けている。自主的に動かず、他人任せでもないという中途半端な状態で自分の殻に閉じこもり続けることができる
      • 2 「やなりあの人も私の問題を解決できない」と面白がることができる
      • 3 相手から助けてもらう関係の中で、治療を受け続ける限り、他人から負のストローク(批判、説教、要求)を受けずに、一応正のストローク(承認、触れ合い)を得続けることができる
      • 4 自分はいろいろな人から一生懸命助けようと努力されるに値する存在である(I am OK).しかし、あなたは助けることはできない(yo are not OK)という自己肯定、他者否定の立場に浸ることができる
    • 本例では心理社会的背景から3のメリットの存在が疑われた
    • この型のゲームから脱却するには、通常、すでに提示した選択肢から患者に選ばせることや、患者に新たな選択肢を提示させることが必要。本例では過剰な圧痛のため、選択肢を提示できず
    • 本例では交流の切り替えを行った 相補的交流から交差的交流へ
    • 患者が疼痛顕示行動をとるほど治療が進行し、治療の妨害というゲーム本来のメリットとは逆の結果となる。これがゲームからの脱却に有効だった