山本和己、大西康則、阿部隆明、加藤敏 夫の死後に疼痛障害を来した老年期女性の一例 精神神経学雑誌 2006;108(11):1142-1150
- 対象喪失の悼みに対する喪の作業が正常になされず病的喪となると、「悼み」に代わって体の「痛み」が出現するとされる
- 支持的精神療法では、痛み(=対象喪失の悼みの訴えを受容的に傾聴し、患者が喪の作業を成し得る機会を与えることが重要である
- 慢性疼痛の諸要因の代表的なもの 岡島、加藤
- 配偶者の死はおそらく人生最大の喪失体験である
- 夫の看病から解放された荷おろし的うつ病的な要素があったかもしれない
- 岡島、加藤の痛みとうつ病との関係の分類
- 加藤はうつ病の体の痛みの出現機制に関し、頭痛がよい例だが、「重い」、「なんとなく重い」といった身体局所の重さの感覚を伴っていることを踏まえ、患者がこうむる苦悩の重圧のいかんとも表現しがたい匿名的な痛みが体にかかる事態の具体的表現とみることができるとしている
- 外陰部という部位は、様々な喪失体験によって痛みが生じえる部位のようである
- 岡島、加藤の慢性疼痛に関する総説では、「慢性疼痛は対象喪失をこうむりながら、その喪がなされず、対象喪失による心の悼みに変わって体の痛みが出現したものと解釈され、病態としてはうつ病の構造をもつといえる」と論じている
- 痛みは主観的な訴えであるために、宛先があって、つまり他人に認められてはじめて成立するという側面があり、本症例の痛みも治療者の受容によってはじめて日の目をみたわけである。成立した体の痛みは、イコール心の悼みの成立である。「喪ったものへの心の悼み」を治療者に「体の痛み」をとおして認めてもらえたことで、入院による内閉的環境の下で、患者自らが病的喪を正常喪に変えていく喪の作業をなしえたのであろう
- 慢性疼痛の治療においては、痛みが対象喪失の悼みを代弁しているだけに、まず真摯に患者の訴えを傾聴して受容する必要性を強調したい。