慢性疼痛を呈した高齢者に対する動作療法の試み

竹田伸也 慢性疼痛を呈した高齢者に対する動作療法の試み 心理臨床学研究 2009;27(5):524-533

  • 行動療法では、疼痛体験に基づく行動を痛み行動とし、痛み行動が強化されるような条件下で慢性疼痛が持続するという理解に基づき、痛み行動を強化しない環境調整と健全な反応の強化を図るアプローチにより痛みの改善をねらう Fordyce 1973
  • 認知行動療法では、痛みを維持する認知に注目し、痛みに対する認知を変容することで痛みに伴うさまざまな問題の解決を図ろうとする Turk 1984
  • 痛みの持続につながる生活様式は、喪失体験などの老年期特有の課題に立ち向かおうとする態度の表れであるという視点から、老年期の心理的問題を理解することもできる
  • 日常生活のなかで、“意図以上にがんばりすぎてしまう”生活様式とそのがんばりすぎる自らのあり様に気づけないという体験様式により筋緊張が維持された結果生じたものであると推察された
  • 「肩が楽になったと感じと似た感じが少ないくらい、普段からがんばっていたのかもしれませんね」
  • 成瀬悟策 “動作の特徴のクライエントの生き方が反映される”
  • A氏の痛みの現病歴は2年と長かったが、これは“痛み”が“仕事”の象徴的存在であったため、痛みを簡単に手放すことができない生活様式に陥っていたと理解することもできる
  • ひたすら執筆に力を注ごうとするが、以前のように無理が利かなくなった結果表れたA氏の疼痛には、“喪失”といかに向き合うかという大きなテーマが存在したようにも思える。そのような視点にたつと、“無理をしすぎる”対象であった仕事自体をなくすということに焦点をあてた介入では、今回のような改善をみとめなかったと思われる
  • 老年期は“喪失の時期”といわれるが、ある対象に“向かう”ことに全力をこめる心性は、老年に訪れる喪失を補償するものとして意義があるのかもしれない。竹田は、そのような喪失に伴う激しい感情を自分のなかに引き受けることが老いの受容を支える可能性について触れている。それゆえ、むかいすぎる“対象”をなくしたり、変容させたりすることは、高齢者に新たな喪失体験をもたらす可能性があるといえる
  • 患者の訴える疼痛は、日常生活の中で“意図以上にがんばりすぎてしまう”生活様式と、そのがんばりすぎ自らのあり様に気づけないという体験様式により筋緊張が維持された結果しょうじたものであると推察された
  • 18回におよぶ動作面接により、患者の疼痛はほぼ消失し、“無理にがんばりすぎる”生活様式から、“ほどほどにがんばり自分を大切にする”生活様式へと変化した。疼痛とそれをもたらす生活様式が変化した要因として、1随伴緊張を通して自らの生活様式への気づきを深め、一方で随伴緊張と痛みとの関連について気づきという“気づきの連関ともいえる体験様式によって、自らの生活様式と痛みとの関連を理解したこと、2動作に伴う良好な体験を通して、痛みの場から良好な体験の場へと身体の役割が変化し、痛みに執着しないまでも望ましい体験がえられたこと、という視点から論考した