うつ病と腰痛

吉田勝也、加藤敏 うつ病と腰痛 ー対象喪失と秩序の破綻
臨床精神病理 2006;27:185-195

  • Schoffermanらは、子ども時代に、親が薬物依存であったり、身体的虐待、性的虐待、ニグレクト、遺棄による心的外傷を受けると、成人してから、慢性腰痛に罹りやすいと述べており、腰痛の背景にあるものが具体的に示されている
  • 筆者らは、腰が重いことを苦にして、自殺企図に至ったうつ病の症例を報告し、「腰が重い」という訴えは、うつ病における「身体変容」の表現であり、そこには、際立った「苦悩の重圧」があり、自殺の危険が高まると考えた
  • Polatinらは、慢性腰痛患者の98%が、DSMの第I軸診断のどれかを満たすと報告し、慢性腰痛と精神疾患の密接な関連を示唆している
  • Morrisによると、最先端のペインクリニックの多くは、痛みは感覚ではなくて、知覚という定義を採用しており、知覚には、神経系統だけでなく、心や情緒が必要である。慢性の痛みの体験に心というものは確実に内在しているという
  • どの症例にも共通しているのは、家族に対して依存的な側面が目立つこと、喪失体験後に腰痛が生じていることである
  • 身体変容とは、自分が自分の「身体であり」かつ「身体をもつ」という自己tの新体制に大きな変容がもたらされる
  • 腰痛は、ある程度、<もの>の喪失を覆い、主体を自殺衝動から守っていたと推察される。自殺衝動が生じる時、空虚という身体変容から、腰痛という身体変容が取り去られる状況がみてとれる
  • 腰痛は、主体を自殺衝動から守っていたと推定される