井上真輔、牛田享宏、西原真理、新井健一 学際的痛みセンター 臨整外 2011;46(4):558-563
- 痛みという現象は本来、生物的な問題だけではなく、社会、心理的な要因を持つ多因子性である。
- 慢性痛には、George L Engelが1977年にScienceに発表した”疾病には生物学的要因、心理学的要因、社会環境が互いに影響し合っており、単独の原因に帰結できない。ゆえに患者の治療にはそのすべての要因を考慮することが不可欠である”とする生物―心理―社会モデル(biopsychosocial model)という概念で治療に取り組む方がふさわしい
- multi-disciplinary 集学的 各専門家間に連携がない
- inter-disciplinary 学際的 さまざまな分野の専門家が一つの部門にあつまって全員に意見を協議した上で、チームとしての治療方針とゴールを設定する
- IASPの学際的ペインセンターの定義
- 痛み治療と患者ケアサービスを実践し、痛みに関する研究と教育活動を行う場であり、そこでは幅広い分野の臨床スタッフが存在して、さまざまな専門分野に携わる臨床医師が同じ空間で一緒に働き、定期的かつ頻繁に患者の情報や治療方針、治療手技が協議される
- 我が国においては、1各診療科間の交流が乏しいこと、2基礎研究分野と臨床研究分野に隔たりが大きいこと、3医療報酬制度が十分に対応できないこと、があいまってペインセンターの設立がすすんでいないのが実情である
- 愛知医科大学医学部学際的ペインセンター
- 2007/7設立 4名の医師(整形外科2、麻酔科、精神科)、専従看護婦、臨床心理士、理学療法士
- VAS;visual analogue scale,PDAS;pain disability assessment scale,HADS;hospital anxiety and depression scale,PCS;pain catastrophizing scale
- われわれの施設では、痛みを生じる原因となった疾患自体は治癒していても、使うと痛みが生じるのではないかという恐怖感から、局所あるいは全身を動かせなくなっている患者が多くみられる。精神的な恐怖感だけでなく、実際に長期にわたり不要な安静をとることで、疼痛部位周辺の関節拘縮や筋肉の短縮などを生じて、あたかもギプス固定後の拘縮のように不動化にともなう痛みが生じてしまう。そのようなケースには、身体精神反応をうかがいつつ、徒手療法を組み込み、運動療法を導入することが必要であると考えている
- みのことで頭がいっぱいになっているような“慢性痛にとらわれている患者”には、治療の目的を“痛みを取り除くこと”に執着してはいけない。前述した生物心理社会モデルに基づいて心理面や社会面にも働きかけて、“患者の日常生活動作を改善し生活の質を高める”ことへ意識を向ける必要がある.痛み行動を軽減し、痛みと共存することを目標とするオペラント行動づけに基づいた認知行動療法も治療の一翼を担う
- “慢性痛は医療側の努力では解決せず、患者自身が治そうという主体性をもって治療に参画することが最も重要である”といった患者教育も合わせて発信できればより有用である