慢性疼痛臨床における行動理論の応用

小宮山博朗 慢性疼痛臨床における行動理論の応用  こころの臨床ア・ラ・カルト 1994;13:33-39

  • 行動理論 レスポンデント学習、オペラント学習
  • Fordyce
    • オペラント学習の原理を導入することにより、痛みのメカニズムにおける個人と環境との相互作用としての機能の重要性を提唱
    • 彼は患者が痛みを訴えたり、苦しそうな表情をしたり、足を引きづって歩いたりするなど、痛みの存在を周囲に伝える機能をもつ一連の行動を「疼痛行動」と称し、痛みの一次的原因となる障害が治癒してもそれが長期間持続する場合には、オペラント学習の機制が働いている、と主張した。
    • すなわち、「疼痛行動」は、かならずしも外部からの刺激によってひきおこされる生理的・心理的異常に対する生体の運動的反応ではなく、餌を求めるネズミのレバー押しと同じように、ある報酬を獲得するために積極的に環境に働きかけている機能を果たしていることもあると述べた
  • 報酬 疼痛行動に随伴することによって出現頻度や強度を増加させる刺激
  • 報酬のタイプ
    • 重要な人物からの注目や関心、養護的なかかわり(養護反応)
    • 家庭あるいは社会生活への再適応の回避(現実回避)
    • 攻撃性と罪悪感、不満と自己抑制などの心理的葛藤の隠ぺいあるいは抑圧(葛藤回避)
    • 他の家族構成員間の葛藤の回避(家族システムの維持)
  • 行動分析とは単に患者の問題行動の報酬を見出すという操作的手続きあるだけでなく、個々の患者にとって痛みの心理的・社会的・実存的な意味を理解し、疼痛で実現されている患者の全人的な苦痛に共感することであるといえる
  • 患者がたとえ痛みを訴え続けようが、活発な日常生活を送り、期待される仕事をこなすことが可能で、薬の内服量や通院回数が少なくなれば、もはや痛みそのものは問題でなくなる
  • Fordyceは回避学習メカニズムによる疼痛行動の形成について次のように説明した。
  • 人間は一般に不快な結果を伴うと予想される行動を回避する。外傷や身体疾患の治癒過程で何らかの動作に伴って痛みが自覚された時それを病変増悪の徴候と認識すると、以後その動作を回避するようになる。その回避が続くとやがて筋委縮や関節拘縮をきたし、二次的な痛みの原因となって悪循環を形成する。ここでは、「痛みをおこす動作は病変を悪化させる」という予期(認知)が、足を引きづる、不自然な姿勢をとるなどの疼痛行動の持続に重要な役割を果たしているとされる。
  • 不快の結果の予測のために回避している動作を遂行可能となるには、それを実行し、実際には不快な結果はおこらないことを自ら体験することが必要である。痛みに耐えて徐々に疼痛部位を動かすことにより、やがて痛みが軽減し自由に動かせるようになるという体験をすることが治療となる。
  • オペラント学習は、必ずしも疼痛を訴えるというような目に見える行動(外顕的行動)だけではなく、生理的反応や認知(内顕的行動)をも維持・増強させうる。このことは適切な行動分析を行うためにきわめて重要な原則である。