宗田大 膝痛 知る診る治す MEDICAL VIEW 2007

膝痛 知る診る治す

膝痛 知る診る治す

  • 序文
    • 整形外科の外来治療において患者の痛みをどうとりのぞいてあげるか。これが整形外科医の第一の目的であってよいはずである。しかしながら私のうけた教育、また大学卒業後これまでの20数年間、骨関節系の痛みに対して真面目に扱い、かつ私にとって有益な論文、講演、情報は非常に数少なかった。最も多く患者の訴える「痛み」を整形外科医は無視してきたのである
    • 一般的に整形外科医は手術のことになると議論を白熱させるが、保存療法や手術の後療法になるととたんに熱意を失う
    • 私は患者の痛みを一時的にでも楽にしたいと願い、押して痛みを訴える部分に局所麻酔剤を注入するいわゆるトリガーポイントブロック治療を好んで行ってきた
    • 膝痛 外側痛 圧痛点が多くの場合、腓腹筋外側頭の腱様部であることを近年までしらなかった
    • 患者の主観的評価である痛みを科学することは非常に難しい。しかし難しいからと言って軽んじてよいのだろうか
    • このように整形外科医を訪れる骨格系の痛みを主訴とする患者に対する治療の現状は、甚だおぼつかない。私にとっては疑問だらけである
  • 第一章 膝痛を知る
    • p13 膝関節は非常に複雑な構造をもっている。―――外来を訪れる患者の愁訴の多くが膝痛であり、膝痛の原因が単なる構造の破たんによって起こることは少ないと考えた場合、このような大まかな膝の構造の理解だけでは十分といえない現実に直面する。われわれ膝を治療する側には、痛みについてもっと深い理解と詳しい知識が必要である。
    • p14 痛覚神経は膝痛の原因でなく、あくまで膝痛の発痛源である。
    • p15 膝痛の発痛源は、その部位により1滑膜関節包(関節内痛)、2繊維関節包と関節包靱帯(関節周囲痛)、3大腿四頭筋などの膝周囲筋(関節支持軟部組織痛)、4腱付着部や関節包付着部(骨膜痛、関節支持骨組織痛)の4つにわけられることができる
    • p16 滑膜関節包に痛覚神経が多いのは、関節内環境のセンサー的な役割が大きいためと考えられる
    • p20 関節老化の代表的対象である”軟骨“には痛みを感じる神経(痛覚神経)はない。
    • p20 膝痛は“炎症による二次的な疼痛”と“関節周囲の支持組織由来の疼痛”に二分されると考えられる
    • p22 軟骨が摩耗すれば必ず膝痛がおこるか?という疑問についての答えは「否」である。膝痛を感じなくても軟骨摩耗は進行する。また初めて痛みを感じた時には軟骨摩耗が進行して消失していることもある
    • p23 最もつらい痛みは膝関節周囲の筋肉痛である。膝周囲筋肉痛を軽く見てはいけない。
    • p24 膝の前後の悪循環は、ヒトが2足歩行で活動することにより膝の伸ばす伸展機構に負担を感じることから起こる。すると同じ歩行という動作をするにあたっても膝の前の筋群、すなわち伸展機構に負担をかけないように歩くため、膝裏の筋肉をその代償としてつかうようになる
    • p24膝裏で歩行を支える筋肉の代表が腓腹筋である。なかでも腓腹筋外側頭は可不可を受けやすい。これが進行すると膝の完全伸展が不良になり膝前方組織の柔軟性が低下し、疼痛域値が低下する。膝が伸びなくなればますます伸展機構の力は落ち、腓腹筋の過負荷がさらに増大するという悪循環を形成する
    • p27 つまり50歳以上の50%以上に経験されるという膝痛の原因は、単純に膝OA=軟骨摩耗が主因とは考えにくい。むしろこの基盤には加齢による”組織の柔軟性の低下“と”痛覚線維の閾値低下(血行の障害、線維化)“が存在すると考えられる。
    • p29 鋭い痛みを訴える症例、たとえば動作に伴う強い痛みなどは、伸展機構を代表する関節周囲組織や関節支持軟部組織由来の疼痛が多い。正しい治療を行えば概して予後は良好である。