慢性疼痛とうつ病

藤武、郭偉、伊藤奈々 慢性疼痛とうつ病 総合臨床 2010;59(5):1268-1272

  • 慢性疼痛によって失われるものは、人間関係、病気・手術・事故などによる身体喪失、身体機能の障害、身体的自己像の損傷などが含まれる。さらに、精神的に拠り所となるような自己を一体化させていた集団や、自己の価値観、自信、誇り、名誉なども含まれる
  • 慢性疼痛に悩まされる患者は生きていく目標や自信を失い、社会的な職業を失い、家族を失うなど、喪失体験ばかりである。
  • 対象喪失に伴う悲哀の心理過程(否認、怒り、取引、絶望、抑うつ)。慢性疼痛に伴う深刻な問題は抑うつの段階にとどまっている場合であろう。
  • 慢性疼痛患者との日常診察場面で経験することは、現実の問題に焦点をあてることができず、絶え間なく、痛みに関連する不安な過去と未来の考えに支配されている「認知の歪み」が存在することにある
  • この認知の歪みによって、日常生活における行動も著しく制限されている。なにを始めるにも不安(痛みがひどくなるかもしれない)が伴い、具体的な行動に移すことが難しい。さらには、人と交わることが辛く、周囲の人に配慮しすぎるため、人間関係に過度に疲れ、どうしても集団に加わることができない。
  • 慢性疼痛患者の包括的な治療を考えるうえで、上記に示した「認知の歪み」「体を動かすことへの不安」「集団力の低下(孤立、ひこもり)」に焦点をあて、慢性疼痛患者との長期的な治療関係を維持していくことが大切である
  • 薬物を中心とした治療だけでは、患者の依存性を高め、治療に対する患者側の責任性の放棄を招くことも少なくないと指摘され、理学療法的リハビリ治療が有効であったと丸田は紹介している
  • 患者の多くが痛みや抑うつを引き起こしやすい歪んだ認知(物の考え方やとらえ方)をもっており、心理的に大きな負担をかけてしまい、そのためにこころ穏やかな生活を送ることが困難になっている。
  • 慢性疼痛に悩むうつ病患者にとっては、自分の認知の歪みのパターンに気づくことで、涙を浮かべ、癒されることも多い。
  • 認知の歪の10パターン (バーンズ)
    • 白か黒か、全か無か(白黒思考)
      • 物事に対し「白か黒か」「0か100か」といった極端なとらえ方や決断をし、中間にあることを考慮にいれる柔軟な思考が難しい。ほとんどの問題の解決策は中間にあるが、ものをみるとき、両極端な見方をしてしまうことから、「白黒思考」と呼ばれている。
    • 一般化のしすぎ 
      • ついよくないことがおこると、「すべてが。。。」「いつもこうです」といった考え方やものの言い方をしてしまう。自信喪失になりやすい物の考え方
    • 心のフィルター 
      • ちょっとした一つの欠点を大事に捉え、他のすべてのことを無視してしまう。
    • マイナス化思考
      • 成功や喜びの価値を割り引いてしまう
    • 結果の飛躍
      • 具体的な根拠のないまま、自分勝手に結論を急ぎ、物事を否定的に考えてしまう。
    • 過大視と過小評価
      • 自分の短所や失敗を必要以上に大変なことだととらえ、自分の長所やしたことをつまらないとして見積もってしまう傾向
    • 感情的決め付け
      • 「嫌なものは嫌」「ダメなものはダメ」「できないといったら、できない」
    • すべき思考
      • 何かしようとする時、「――すべき」「――すべきではない」「――こうあるべきだ」と考えてしまう
    • レッテル貼り
      • 自分にネガティブなレッテルを貼ってしまうこと。自分勝手に物事を決めてしまう傾向
    • 自己関連づけ
      • 自分に直接関係ないようなことでも、自分のせいにしてしまう傾向