線維筋痛症の診断と治療に活かすNarrative based medicine

村上正人 線維筋痛症の診断と治療に活かすNarrative based medicine ペインクリニック 2010;31(3):299-306

  • 最近注目されてきた線維筋痛症は、慢性疼痛の代表的かつモデル的な疾患であり、その発症と経過には多くの心理社会的ストレス要因が関与しており、まさに患者の「語るべき物語」がある。FMの診断と治療のためには、この物語に傾聴し、痛みを受容、共感し、長い治療プロセスを支える姿勢が必要であり、それがnarrative based medicine(NBM)の基本である
  • NBMは「物語に基づいた医療」と訳され、患者の病の体験を語らせ、患者と治療者がその物語を共有し、治療者と対話とすり合わせを通して新たな物語の構築を図るプロセスである
  • 特に、人間社会が多様化、複雑化するにつれて人間の痛みも様々な形に修飾され、痛みの本質は心と体の両面から評価しないと理解できない。
  • 実際の医療の現場では、「身体的な痛み」が「感情的な痛み」を伴って慢性的な疼痛に発展してく症例を多く経験する。痛みは末梢に生じた疼痛刺激がそのままに大脳で認知される訳ではなく、痛みの閾値の変化には交感神経系の緊張や興奮、睡眠不足うや心身の疲労、痛みに対する強迫・抑うつ・悲哀・怒りなどの心理状態など多くの要因が関与している。中でも痛みと最も親和性の高い感情は「怒り」と「恨み」であろう。
  • 「患者が語る物語」、「患者が生きてきた物語」に傾聴し、痛みを診断し、治療に結びつけていくのがnarrative based medicine(NBM)の基本である
  • FM 強迫性格・循環気質・メランコリー・過剰適応・自己犠牲などの個人の性格的特性、不安を背景とした完全性、強迫性などの行動特性が疑われた
  • 他の慢性疼痛と同様、他人に対する怒り、敵意、攻撃心、腹立ち、恨み、悲哀、怒りなどの感情表出が十分になされず、それらが内向して自罰傾向をとると痛みがより増強されることもある。FMではそれぞれの患者が「痛むように生きている人生」を歩んでおり、まさに痛みの背景に語るべき人生があるようにも思えることが多い
  • FMの予後を悪くする要因の一つに破滅性がある
  • ここでいる破滅性とは、問題解決ができず心的秩序が崩壊した状態で与えられた課題を達成できないばかりか、従来容易に解決していた問題も解決できなくなり、落ち着きを失い不安があらわになる状態をいう。痛みが破滅的な結果をもたらす、この痛みのためになにもできない、この痛みのためにすべてが終わってしまう、などの表現がなされる
  • FM患者にみる不安から生じる破滅性、強迫性などの性格行動特性が線維筋痛症患者の行動を規定しており、それぞれの患者が「痛むように生きている人生」を歩んでおり、痛みの背景に語るべき人生があることが理解できる。
  • ナレイティブセラビーの方向性はこの破滅的思考の認知の転換と強迫性のコントロールにある。共感を持って痛みを受容し(受容)、つらい治療期間を励ましながら支え(支持)、器質的・機能的障害を残すことがあに痛みであることをよく説明し(保証)、休養、リラクゼーション、ストレスの対処法、生活の工夫の重要性などについて説明する(説得)のプロセスを通して患者自身の心身相関への認知、洞察を促し、ライフスタイルや行動、意識の変容を図るようにする。
  • ビクトール・フランクルは「苦痛(suffering)があっても意味(meaning)があれば絶望(despair)しない」と苦痛に対する実存的転換をといている。
  • FM患者はしばしば強い強迫性や完全性、攻撃性、執着性を示し、肉体的な過剰負荷を自らに課すライフスタイルをとっていることが多いため、思い込み・独善性からの脱却、日常生活の中で積極的なリラクゼーション、マイナス思考からプラス思考への転換、過剰適応的な行動変容を図るためには、NBMに基づいた患者の語り、解決への気付きが重要である