細井昌子 ペインクリニシャンによる慢性痛患者への心理学的アプローチ Anet 2010;14(1):10-12

  • 痛みの認知行動学的研究が欧米で進歩する中で、慢性痛をもつ患者では、痛みに対する悲観的な認知・思考である痛みの破局化(catastrophizing)が治療対象として重要であることが理解されてきた
  • 痛みの治療の中で形成されてきた医療不信は、難治例であればるほど増大しており、医療不信を治療対象として注目することは、難治化の予防としても重要である
  • 痛み体験には、それが急性痛であろうと慢性痛であろうと、心因性疼痛・侵害受容性疼痛・神経障害性疼痛であろうと、不快な感覚体験と情動体験が常に混在している
  • 痛覚系は認知・情動・自律神経系と密接に情報連携を行っており、痛覚情報と同時に与えられる外界情報に対して、認知・情動・自律神経系による生体反応を統合した結果として、痛みをもつ人間の行動が規定されているのである
  • こういった生物学的背景のもと、慢性痛を伴なう患者では情動不安定とそれに伴なう独特な認知が心理学的な問題となっていることを理解しておくことは、ペインクリニックリニシャンにとって重要な基本であると考えられる
  • 慢性痛をもつ患者を医学的に診察する際には、痛みを感じでいるときには患者が情緒的不安定性を有するという前述した基礎知識とともに、言葉のやりとりそのものが治療的になるような「カウンセリングとしての診察」的な診断および治療技術上のアートが必要になる。その際に、ペインクリニシャンが留意すべきポイント
  • 1 初診で、最初に話題にする内容は、どんな痛みでも、まず「本人が不快な痛み体験で困っている」というsufferingに対する共感・遺憾の感情を患者に伝えることである
    • 情動面を受容し、その次に、痛みの種類を判別するための合理的・客観的な情報を聴取し、さらにその情報を基礎に(たとえ、その情報がその日の時点では曖昧なものであったとしても)、患者と医師が信頼関係を育み、その医療機関で治療を続けようという意欲を感じさせるような言葉のやりとりができれば、初診の目的は達成している
    • ここで重要なのは、初診のあとに試みた医療処置が痛みの緩和に成功するしないに関わらず、対処法を患者と医師の連合軍で今後も長期戦でじっくり練っていくことが大切であると伝えることである
  • 2 痛みの発症、経過とその診断・治療に関する情報を聴取しながら、その間に受けた医療への思い(不満・不信)を受容的に聞くことが、今後の医療不信の予防として有用となる
    • 患者の過去の反応にはすぐに理解しやすいものもあるが、その患者独特の認知・行動パターンが発見されることがあり、その独特さがどのような心理社会的背景に起因するのかついて興味をもつことが重要である
  • 3 痛み発症前後の生活環境、職場環境、ライフイベントの有無を伺い、どのような環境で痛みが発症し、持続・増悪してきたかについて、心理社会的背景を十分に問診する