牛田亨宏 脊椎脊髄外科的科学的機能診断と近年の基礎的神経生理学、そして痛み医療ーその常識の大きな相違 脊椎脊髄 2010;23(2):87-88

  • 海外の研究室で当時の私を驚かせたいくつかの経験
    • サルの脊髄を用いたin vivoの実験 痛みの主たる伝導路である脊髄視床路の機能をオンタイムで評価
    • 一個の脊髄後角神経の性質はさまざまであり、脊髄神経(神経根)のdermatomeとは異なる広がりをみせることも多い
    • 一次感覚線維を上行してきた信号は結果として脊髄においては反対側の後角の活動も引き起こすことがある
    • 一側の視床に入ってくる感覚信号は反対側からだけではなく、両側からの信号が入力される
  • 末梢からの入力がなくても脳の中で思い浮かべるだけで痛みを作ることができることを示した。当初はこのような病態はアロデニアなどの特殊な痛みだけに引き起こされると考えていました。しかし、現実にはわれわれが日常外来で診察する機会が多い慢性腰痛や頚部痛などでもあるのではないかというとが示され始めています。
  • 脊椎脊髄を専門とする医師が特殊な痛みセンターで何ができるか
    • 痛みを慢性化させないという観点からみてターゲットとなる最も重要な病態に「廃用」や「瘢痕拘縮」があるのではないか
  • 諸外国では脊椎脊髄をとり扱う整形外科、脳神経外科といった診療科と神経内科、精神科、心療内科コメディカルが協力して運営するチーム医療がシステムとして構築されてきているところが多く、痛み患者のQOLを上げる試みが広く行われてきております。そういった点から、今後は我が国の体制整備も非常に大切な方向性であろうと考えており、われわれはその構築に努力していく必要があると考えて邁進したいと思っています。

牛田亨宏 運動器の痛みと整形外科医療の今後 整形外科 2010;61(3):204

  • 我々は整形外科医や麻酔科医だけでなく精神科や臨床心理士とチームを作って、インターディシプリナリーに痛み患者に対する医療に取り組んでいる。チームで分析してみると、患者のもつ社会的因子(家庭、職場、生育歴など)や心理的因子、発症要因や疾病利得など複雑な要因が患者の症状に大きく関与していることが多いのがわかってくる
  • 日本では昔から「病は気から」という言葉があるが、きちんとした判断根拠で病名をつけることをしないと、つけられた病名によって患者の症状がどんどん悪くなるようなことも起こりうる
  • 厚生労働省では2009年度「慢性の痛みに関する検討会」を立ち上げ、整形外科、麻酔科だけでなく精神科、神経内科や看護師、理学療法士などのコメディカルが議論に参加している