神経損傷による上位中枢での再編成機構

宮田麻里子 神経損傷による上位中枢での再編成機構 Brain Medical 2009;21(3):227-232 

  • 末梢神経の損傷は、体からの感覚入力や運動出力を遮断することによって、古典的には大脳皮質マップ構造変化に代表される可塑的変化をもたらし、諸々の機能不全を引き起こす。
  • 神経系が発達を終えて成熟した神経系でも、末梢神経の損傷により、体性感覚野で損傷神経に対応する受容野が小さくなるなど機能的変化をきたすことが報告されている
  • 長期間の感覚入力の遮断により、それぞれの大脳皮質領域の固有のモダリティは新たなモダリティに変えるポテンシャルがあるらしい
  • ヒトにおいても上肢を切断した患者はm、体性感覚野の切断部位に対応する一次性感覚野-領域の一部では、切断端や顔を刺激により反応するようになる
  • このように、末梢入力遮断による体性感覚野の受容野の再編成は、急性期には可逆的であるが、時間を経て固定化されると考えられ、この時期を慢性期と呼ぶ
  • ヒトでは慢性的な入力遮断によって、視床でも受容野の拡大や、機能的に異常な受容野は出現する。同時に、視床投射細胞の自発バースト発火が増えたりする。また、サルで手を切断して数年経つと、視床VPL核の投射細胞は、残存した上肢切断端の刺激に反応するだけでなく、顔にも反応するようになる
  • 切断後、長期間にわたり生じる再編成にグリアが関与しているかもしれない
  • Kaasらは神経系の再編成には方向性があり、まずは傷害脳部位で再編成が起こり、その後、情報の階層に従ってフィードフォワード結合による上位中枢への編成が起こると提唱した
  • Nicolelisらは、これらに対してむしろ視床−大脳皮質相互結合の重要性を強調している。つまり、フィードフォワードとフィードバック結合が、視床での再編成の誘発と維持に重要だと提唱している。
  • 神経損傷による皮質、皮質下の可塑性には、それを誘発する機構と維持する機構においてさまざまな機序が関わっている。急性期の再編成(特に数分から数時間以内に生じるもの)には、おそらくunmasking現象が基盤にあると考えられている。つまり解剖学的には存在するが、機能的には不活性の状態にある神経結合が、上行性入力の遮断により、表面化する(unmasking)という考え方である
  • この結果は、NMDA受容体が皮質マップの再構築の早い時期には部分的に関与するが、変、、化の維持を司る遅い時期には寄与しないことが示唆される