南雅文、佐藤公道 痛みによる負の情動反応に置ける扁桃体の役割 日薬理誌 2005;125:5-9

  • 痛みは感覚成分と感情的あるいは情動的成分からなる
  • 本稿では、痛みの感情的成分である負の情動反応における扁桃体の役割とそれに関連する神経情報伝達機構について筆者らの研究成果を紹介する
  • 痛みの感情成分である負の情動反応に関わる神経回路が、体性痛と内臓痛とで異なることを示唆
  • ホルマリン投与により引き起こされる負の情動反応に基底外側核でのNMDA受容体を介した神経伝達が重要な役割を果たしていることを示唆.またモルヒネがこの情報伝達を抑制的に調節することも明らかとなり、モルヒネの鎮痛作用には、痛みの感覚的成分である痛覚情報伝達を抑制するという直接的な作用機序だけでなく、痛みの感情成分である負の情動反応を抑制するという作用機序も関与していることが考えられる。

雅文 痛みと情動 扁桃体およびその関連脳領域の役割 医学のあゆみ 2007;223(9):700-705

  • 痛みは1.侵害刺激が加わった場所とその強さの認知に関わる感覚的側面と2.侵害刺激の受容に伴う不安、嫌悪、恐怖などの負の情動の生起にかかわる情動的側面からなる複雑な体験であると言える。
  • 扁桃体での情報伝達は、体性痛ではまず基底外側核に情報が入力され、つぎに中心核に伝えられた後、他の脳領域へと伝達差され、不快情動が惹起されるが、内臓痛では基底外側核を経由せず、直接中心核に入力され、不快情動が惹起されるものと考えられる。
  • ホルマリンによるじぞくてきな疼痛により基底外側核でのグルタミン酸遊離が増加し、NMDA受容体を介した神経情報伝達が亢進することにより場所嫌悪反応、すなわち不快情動が惹起される。基底外側核に投与されたモルヒネグルタミン酸作動性神経にシナプス前性に作用し、グルタミン酸遊離を抑制することにより不快情動を抑制している可能性が考えられる。
  • 分界条床核もまた、不安や恐怖などの不快情動生成に重要な役割を果たしていることが報告されている。ホルマリン後肢皮下投与および酢酸腹腔内等よのいづれにより惹起される場所嫌悪反応も分界条床核の破壊により消失した。
  • 疼痛刺激により腹側分界条床核内でノルアドレナリン遊離が促進され、このノルアドレナリンによるベータ受容体を介した神経情報伝達亢進が痛みによる不快情動生成に重要な役割をはたしていることが示唆。脳内のベータ受容体が、痛みにより惹起される不安、嫌悪、恐怖などの不快情動の治療標的となる可能性が考えられる。
  • 治療を必要とする慢性的な痛みは、身(からだ)だけでなく、心(こころ)も苦しめる。不安、嫌悪、恐怖、抑うつなどの痛みに伴う不快情動生成のメカニズムを明らかにし、身と心の両方を苦痛から解放することが21世紀の疼痛治療には求められる。