遅発性筋痛

野坂和則 遅発性筋痛 臨床スポーツ医学 2000;17(6):655-663

  • 遅発性筋痛 
    • delayed onset muscle soreness;DOMS 運動中や運動直後に痛みはなく、運動後数時間−24時間程度経過してから発現する
    • 24-72時間後にピークとなり、5日ー一週間程度で消失。痛みが4日以降に激しくなったり、一週間以上経過しても消失しない場合は、遅発性筋痛以外の要因を疑ってみるべき
    • 遅発性筋痛がある筋は、硬さが増し、痛みに対する感受性が高まっており、関節可動域の減少も見られる
  • 原因
    • 乳酸説、筋痙攣説は否定されている
    • 筋痙攣説は、活動筋に虚血が生じ発痛物質が作られ蓄積すると、侵害受容器が刺激されて痛みが発し、この痛みが反射的に痙攣を起こさせることによってさらに虚血状態が進み、発痛物質がさらに産生されるという悪循環が生まれ、痛みが強くなっていくという1960年代に提唱された説である。しかし、その後の研究では筋痙攣が確認されず、エクセントリック運動ではコンセントリックやアイソメトリック運動に比べ虚血が生じにくい点などを考えると、この説では遅発性筋痛は説明できない。
  • 筋温上昇説、損傷説
  • 筋損傷がほとんど確認されてない場合でも顕著な遅発性筋痛を生じる場合があることや、一般的な炎症に効果があるNSAIDの効果が全く認められないこと、炎症メディエータ(PGE2)は遅発性筋痛には関与していない可能性が高いこと、通常、炎症にともなって上昇するCRPが上昇しないことなど、矛盾があることも指摘されており、損傷炎症説が正しいとはいいきれない
  • 遅発性筋痛の程度と筋損傷の程度
    • 遅発性筋痛の程度と間接的な筋損傷指標の変化量との相関関係は低い
    • 痛みの感じ方は個人差が大きく、痛みの評価が主観的なものであったためか
  • 遅発性筋痛の対処法 予防と治療
    • 予防 
      • エクセントリック筋活動を避けること 
      • 徐々に強いエクセントリック不可をかけていくこと 不慣れな運動や久しぶりに行う運動後には激しい遅発性筋痛が生じるが、その後しばらくして同じ運動をおこなった場合には、遅発性筋痛はでないか顕著に軽減される
      • 運動前に準備運動やストレッチングを行うことは、障害の予防という観点からは重要であるが、運動前のストレッチングが筋痛予防に効果があることを明示した研究はほとんどない
    • 治療
      • 遅発性筋痛は一週間程度で自然に消失し、とくに治療する必要はないと思われる
  • 筋痛という、われわれが日常的にも経験する現象については、まだほとんどわかっていないのが現状である。痛みという人間にとっても根元的で重要な問題の解明は、まだこれからだといわざろうえない